「OKルール」の提言も
黒田総裁は、2%物価目標を堅持するとして、出口について「具体的な議論は時期尚早だ」(17年4月27日の会見)との姿勢だが、ここにきて風向きが変わってきたように見える。
一つは与党からの声だ。野党は異次元緩和の効果より副作用を問題にしているが、4月には自民党の行政改革推進本部(本部長・河野太郎衆院議員)が、「出口戦略」を進める場合に備えた対応を検討すべきだと提言し、注目された。金利が急上昇したり日銀が債務超過に陥ったりするリスクを警戒する必要があるという問題意識だ。
こうした流れを受けて黒田総裁も5月10日の衆院財務金融委員会で、「出口のシミュレーションを出すべきだ」との野党議員の質問に、「金融政策運営の考え方を、日銀の財務面への影響も含めて説明することは重要だ。今後、検討していきたい」と答え、他の議員の質問にも、「(出口シナリオについて)内部でも議論している」と述べ、「時期尚早」一点張りからは、微妙に軌道修正していることをにおわせた。
とはいえ、「具体的な出口を今から示すのは、余計な思惑や混乱を招く恐れがある」と、具体策には触れず仕舞だ。
みずほ総合研究所は5月29日のリポートで出口に向けた提言を示した。2%の物価目標の実現が困難として、緩和が長びくほど日銀が将来抱える損失は膨らむとの懸念を指摘。2%に到達しなくても長期的にその方向が志向できるならばよしとする「OKルール」(短いパットにOKを出すゴルフになぞらえた考え)を提唱。米国の利上げに動いているうちに日銀が出口に動かないと、海外経済が変調をきたして米国が緩和に反転しようものなら、日銀は緩和からの出口を展望できない「永遠のゼロ(金利)」に陥りかねないと警告し、今のうちに出口に向かうべきだと訴えている。
新聞の社説の論調も、「異例の金融緩和の出口を探る時はいずれ来る。その日に備え、政策の効果とコストも含め丁寧な議論をしておく必要がある」(日経5月18日)、「『出口戦略』の実施は時期尚早だが、市場の関心は高い。難しいかじ取りの成否は、日銀が市場と上手に『対話』できるかどうかにかかっていよう」(読売5月1日)など、市場との対話を含め、出口に向けての議論を求めている。