40代からの目の疲れは「斜位」かも!
目がかすむ、見えづらい、目が疲れる......。40代から目の不調を訴える人が多い。体の衰えや老眼が始まるためもあるが、実は意外な「プラスアルファ」があり、目だけではなく、肩こりや頭痛など様々な症状の原因になっていた。
目の曲がり角に差しかかっている40代を待っている危機とは――。
多くの人は両目を真っ直ぐ正面に向いていない
47歳の女性・サツキさんは近視だが、コンタクトレンズで矯正し、30代までは特に問題はなかった。しかし40代になり、視力低下、疲れ目など様々な症状に悩まされるようになった。眉間のシワが深くなったのも気になった。そこで東京都港区の眼科専門医・梶田雅義さんを受診すると、2つの問題がわかった。
ひとつは老眼。40代なら当たり前だが、本人は自覚していなかった。もうひとつわかったのが「斜位」(しゃい)だった。「シャイ」とは耳慣れない言葉だが、いったい何か。梶田医師は、サツキさんにあるテストを行なった。目の前でペンを動かし、目だけで追ってもらい、ペンを正面で止めた。この時、両目は当然、正面を向いている。続いて、右目を黒いお玉で隠し同じことをして、ペンを正面で止めた。しばらくそのままにして、お玉を外した直後の右目に注目すると――。
お玉が外れた瞬間、眼球がちょっと内側に動き、ペンを注視した。これはどういうことか。お玉で隠されていた右目も正面を向いていたはずだが...。実は、お玉で隠れている時の右目は、やや外を向いていたのだ。目を開けて正面を見ると、当然目は正面を向く。しかし、その目を塞いだり閉じたりすると、目の向きが正面からずれて、斜めに向いている人がいる。このズレを「斜位」というのだ。梶田医師はこう説明した。 梶田医師「斜位に似たものに『斜視』があります。斜視は眼球を動かすことができませんし、外見からわかります。斜位は、正面を見ようとする時に筋肉が眼球を動かし、自然に目が前に向きます。お玉などで視界を隠されて、見る対象になるものが正面からなくなると、また斜め方向に戻るのです。日本人の8割は斜位があると言われています」 MCの井ノ原快彦「へえ~、知らなかった! 初めて聞きました」
「斜位」はプリズムレンズの眼鏡で治せる
目を隠している時に眼球が上を向いているのが「上斜位」、内に向いているのが「内斜位」などの種類があり、外を向いている「外斜位」が最も多い。病気ではなく生まれつきのもので、若いうちは何の問題ない。しかし、「斜位」の人は目を真っ直ぐにするために、無意識のうちに目の筋肉を使っている。これが年齢とともに負担になり、体が衰えてくる40代になると、一気に目の疲れ、肩こり、頭痛、眉間のしわといった症状として現れるのだ。
井ノ原「自分が斜位かどうかは、どうするとわかりますか」
梶田医師「眼科で検査するとすぐわかります。自己診断では、次の傾向がある人は、斜位の可能性が高いです。『本やスマホを片方の目で読むと楽』『本や新聞の同じ行を何度も読んでしまう』『同じ模様のタイルが並んでいるとめまいがする』などです」
井ノ原「あるある、全部ありますよ。斜位を治す方法はありますか」
梶田医師「斜位の矯正にはプリズムレンズを使った眼鏡がお勧めです。プリズムレンズは、光の屈折を利用して見るものをずらして映し出します。そのズレは、その人の目に合わせて調節できます。斜位の人が普通の眼鏡をかけると、ズレた目を正面に向け続けるので目が疲れますが、プリズムレンズだと目の向きがズレたままでも対象を見られるので、目の負担が少ないのです。プリズムレンズは、普通のレンズに比べ、1枚あたり3000円ほど高くつきます」
次に登場したのは47歳のアサミさん。「ここ1年ほどの間に、急激な視力の衰えを感じた」という。小さい頃から目がよかったアサミさん、学生時代の視力検査ではいつも両目が2.0だった。しかし現在は、遠くの物も近くの物もよく見えない。番組スタッフが自宅で取材すると、「テレビなんて、ここまでいかないと見えません」と画面から10数センチにまで顔を近づけた。
遠視は「遠くがよく見えること」ではなかった
そこで、梶田医師の眼科で検査すると、「遠視」だとわかった。遠視なのに、近くの物はともかく、なぜ遠くの物が見えなくなるのか。梶田医師は意外なことを言った。 梶田医師「みなさん、近視は近くが見えて、遠視は遠くが見えると思っている方が多いですが、それは間違いです。もともと遠視は、どこにもピントが合っていないということなのです」
梶田医師は眼球の断面図を示しながら解説した。ザックリ説明すると、遠視の人の水晶体は「正視」の人に比べ、奥行きが短く縦長になっている。そのため、正視でピントが合っている場所に焦点がきても、網膜より後ろでピントが合っているため、よく見えていない。それなのに「遠くがよく見える」のは、ピント合わせの筋肉をギュッと収縮させ水晶体を膨らませているからだ。
ところが、40代になると目の筋力が衰えるし、老眼によって水晶体も硬くなるため、水晶体を収縮できなくなり、遠くが見えづらくなる。もともと近くの物は見えにくいから、突然、両方見えなくなるわけだ。おまけに若い頃から視力に自信があり、眼鏡をかけることに慣れていない。
梶田医師「しかし、遠視の人も、遠近両用の眼鏡やコンタクトレンズを使うと、遠くも近くも見えるようになります」
眼鏡店で眼鏡を作る前に、眼科で検査をして処方箋をかいてもらうといいそうだ。
失明につながる「緑内障予備軍」は眼科の健診で
さて、ここまでは40代の「目の不調」だったが、これから先は恐ろしい病気の話に入る。40代女性のサチヨさんは、今年春に受けた検診で突然、目に関する聞き慣れない病名を知らされた。「視神経乳頭陥凹(かんぼつ)拡大」。眼底で視神経が集まり、焦点を結ぶ箇所が陥没して穴が開く病気だ。症状が進むと、陥没した部分が大きくなり、視界が黒い映像で覆われて見えにくくなる。サチヨさんは何の自覚症状もなかったが、眼科医から「緑内障の予備軍です」と宣告された。
緑内障は、進行すると視野が欠けてきて失明に至ることがある病気だ。40代以上の患者数は約400万人と推定されている。よほど進まないと自覚症状はなく、早期発見には眼科の検査を受けるしかない。東京医科歯科大学の眼科専門医・大野京子さんはこう解説する。
大野医師「緑内障とは視野が欠けてくる病気です。視野は周辺から欠けてくることが多いので、意外に気がつきません。周辺とは、上や下など色々ですが、特に上が欠けた時には、人は上を見上げることが少ないので、半分ぐらい欠けてきても気が付かないことがあります」
柳澤秀夫解説委員「治療方法はあるのですか」
梶田医師「残念ながら、進行を遅らせることしかできません。完全に治す治療法の研究に努めている段階です。だからこそ、眼科での定期検診をお勧めします。眼底検査をすれば、早い段階で視神経乳頭陥凹を見つけることができます」
柳澤秀夫解説委員「でも、治せないのでしょう? 怖いなあ、いずれ失明するかもしれないなんて。むしろ検査して知りたくない気がする」
梶田医師「早い段階で見つければ、進行を極めてゆっくりにすることができ、少なくとも天寿を全うするまで、視力の不自由さを感じずに生きられるのですよ」