生まれてから数年で「成熟期」に達すると考えらえているヒトの視覚が、実際は40代まで「成長」を続けているとする研究結果がこのほど発表された。
脳内のタンパク質に注目して分かったもので、弱視などこれまで矯正治療しかなかった目の疾患の研究で今後の進展が示唆されるという。
カナダの研究グループが発表
研究結果を発表したのは、カナダ・マックマスター大学のキャサリン・マーフィー教授らのグループ。2107年5月29日付で米国の神経科学に関する専門誌「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」に論文を寄せた。
これまで、脳や神経の研究者らの間では、ヒトの脳の視覚処理は「成熟」までの期間が短く、生まれてから数年間で成長が止まるものと考えられていた。マーフィー教授らは、脳内のタンパク質の動きを調べた結果「考えられてきた以上の長期間にわたって成長することが分かった」としている。
これまでの「定説」では「脳の一次視覚皮質は生まれてから数年で成熟期に達する」とされたが、これは、解剖による観察をベースにしたもの。研究グループは、一次視覚皮質に数種類のタンパク質みつけ、これらが「生まれてからの数年間」を越えて成長を継続させると考え、研究で裏付けられたという。
生後20日~80歳まで視覚皮質を分析
今回の研究では、生後20日~80歳までの30人の死後の脳組織を分析。ヒトの脳の1次視覚皮質の年代による進化を確かめた。
それによると、5、6歳で成長が止まるというのが研究者らの共通認識だったものが、40歳前後まで成長を続けたケースがあった。詳しく検討して得られたのは、ヒトの脳の視覚処理部位の成長は平均で36歳まで継続し、個人で前後にそれぞれ4.5歳の差があるという。
また、1次視覚皮質の生長は5段階に分けられ、このことは、ヒトの視覚が生涯を通じて変化していることを示すものという。
米国では子ども100人のうちだいたい2、3人の割合で弱視を抱えると推定されているという。こうした子どもたちにとっては、矯正的な治療法しかないのが現状。今回の研究結果で、根本的治療をさぐる方向に進む可能性がある。
視覚をめぐっての成人を対象にした療法は、視覚皮質に柔軟性がなく効果が期待できないと考えられているが、マーフィー教授は、研究で脳の柔軟性が分かったので、これまで見送られてきた治療が有効な可能性があると述べている。