Pヴァイン、と聞いてピンときたあなたは、結構な音楽ファンだろう。1975年の創業以来、前身のブルース・インターアクションズ時代も含め、「知る人ぞ知る」ようなミュージシャンの作品、また音楽関連の書籍・雑誌などを世に送り出してきた会社だ。
そのPヴァインが、「コンビニ」を始めたという。個性派の老舗レコード会社が、なぜコンビニを? 実際に店舗を訪ねることにした。
店内BGMは所属ミュージシャンの楽曲
「サブカルの街」として有名な下北沢。しかし、南口から出て少し歩くと、落ち着いた雰囲気の住宅街となる。
2017年5月9日オープンしたコンビニ「nu-STAND(ニュースタンド)」があるのは、そんな一角だ。30日、取材に来た旨を伝えて店内に入ると、レジに立っていたヒゲの男性が笑顔で名刺を差し出した。
「Pヴァイン・レコード 代表取締役 社長 水谷聡男」
なんと、社長本人だ。
「たまにやっているんですよ。やはり、自分で現場を経験して、把握しておきたいので」
コンビニとしての品ぞろえは、ちょっと意外なほどに「普通」。菓子やインスタント食品、ドリンク、雑貨など、基本的な製品が並ぶ。店内BGMは所属ミュージシャンの楽曲だが、自社のCDや書籍も販売していない。
一方で充実しているのが、「デリ」コーナーだ。店内調理の惣菜約20種類を主力に、コンビニとしては国内でほぼ類を見ない「サラダバー」、生ビール、サンドイッチなどを取り扱う。併設のイートインコーナーで、ゆっくり飲食することも可能だ。お客からのリクエストで開発したという、近く発売の新商品「パストラミ丼」を試食させてもらったが、分厚いピリ辛の肉でご飯が進む。
「大手と同じことはできないし、やってもしょうがない。音楽の分野でやってきたのと同じように、今あるコンビニとは違う『オルタナティブ』な価値観を提案したかった。そこで考えたのが、『店内調理』だったんです」
コンビニは今や、私たちの食生活でも重要な位置を占める。その「食」の部分で、効率を重視するコンビニとは逆に、じっくり手間をかけることで付加価値を与える。そんな「オルタナティブコンビニ」がコンセプトだと、水谷社長は語る。