整体やカイロプラクティック、リラクゼーションマッサージによる事故が、深刻化してきた。消費者庁は2017年5月26日、「法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に」とした注意喚起を発表し、事故件数が2009年9月から2017年3月末までで1483件に達していることを明らかにした。
神経や脊椎損傷といった重症例も事故全体の16%を占めている。「施術が下手で余計に痛くなった」では済まない例も確認されているのだ。
肩を頼んだのに胸部を施術で骨折
消費者庁に報告されている事故件数自体はここ数年横ばいで200件前後だが、治療期間が1か月以上となる事故の割合が高くなっている。症状の内訳としては、「神経・脊髄の損傷」が最も多く、「擦過傷・挫傷・打撲傷」「骨折」などの症状が続く。どうしてこうした事故が起きるのか。
事故事例を見てみると、肩の施術を頼んだのに胸部を施術され、ろっ骨を骨折したというものや、首をねじられ痛いと訴えたのに「痛いほうが効き目がある」と言われ無理に続け頸椎を損傷していた、ひざの痛みを訴えたのに顔のゆがみが原因と言われ強引に施術され歯の痛みと耳鳴りがして眠れなかったなど、施術内容や方法に疑問を感じる内容が多い。
J-CASTヘルスケアの取材に答えた30代の男性は、右の肩甲骨あたりに痛みを感じて整体で施術を受けたところ、首筋を強い力でマッサージされ痛めてしまったという。
「なぜか『あなたは右利きだから右側に負荷がかかっている』と断言されたのですが、私は左利きです。あてにならないと思いすぐに整形外科に行くことにしました」
前述の事例を踏まえ消費者庁が指摘しているのは、整体やカイロプラクティック、リラクゼーションマッサージには法的な資格が存在せず、施術内容も個人差が大きく玉石混合の状態であるという点だ。
さらに、「あん摩マッサージ指圧」「柔道整復(ほねつぎ、接骨とも)」と異なり国家試験や養成施設などで国が定めた教育課程を受ける義務などもなく、極端に言えば何の知識もなく施術者になれてしまう。統一的な施術ガイドラインなども存在しないため、施術レベルの極端な差につながり事故を起こす原因になっているのだ。
ある整形外科医はJ-CASTヘルスケアの取材に対し、医療とは考え方や前提となる知識が異なるのも問題ではないかと指摘した。
「骨盤が歪んでいると言われたとよく聞きますが、足の根元ともいえる骨盤が本当に歪んでいたら、整形外科では手術も検討するレベルの重症です」
整体と医療では言葉の意味が違うのかもしれないが、根本的に知識が誤っているのであれば当然事故の原因になると、この整形外科医は危惧する。
頸椎を回転させたり伸ばしたりする施術は「禁止」
カイロプラクティックは「カイロプラクティック療法」と記載されていることがあるため治療効果を期待してしまうが、厚生労働省は従来の医療を補完する「統合医療」のひとつで、同省の「統合医療情報発信サイト」でも通常医療と見なされていない心身療法と位置づけている。
さらに厚労省は1991年に「医業類似行為に対する取扱いについて(平成3年6月28日 厚生省県政策局医事課長通知)」という通達の中で、腫瘍や出血があるけが、心臓の病気、感染症、リュウマチ、筋萎縮性疾患、椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、骨粗しょう症、側彎症、脊椎すべり症など多数の病気が「カイロプラクティック療法の対象とすることは適当ではない」としたうえ、「長期間あるいは頻回のカイロプラクティック療法による施術によっても症状が増悪する場合がある」とも忠告。特に頸椎を回転させたり伸ばしたりする施術は、頸椎に損傷を加える危険が大きいため禁止する必要があるとまで書かれている。