安倍晋三首相の友人が理事長を務める加計学園の獣医学部新設をめぐり、「印象操作」が行われているとして、与野党が非難の応酬を展開している。
2017年5月30日の参院法務委員会で、安倍氏が過去の一時期に加計学園の役員として報酬を受け取っていたことを民進党議員から指摘され、「印象操作」だと憤った。そうかと思えば、獣医学を特区に新設する計画は旧民主党政権下で進んだとする政府の主張に、民進党の蓮舫代表も「印象操作」が行われていると主張したと報じられた。両者が「印象操作」を主張し、隔たりは埋まらないままだ。
菅官房長官「是非、少し勉強して欲しい」
一連の問題でクロースアップされているのが、文科省が特区を担当する内閣府から「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」などと伝えられた、とする文書の存在だ。だが、菅義偉官房長官ら政府側は、獣医学部新設計画は民主党政権も前向きで、「総理のご意向」はなかったなどと繰り返し主張。5月30日には、文書でも改めて民主党政権の関与を主張した。
特区を担当する山本幸三規制改革担当相は同日の記者会見で、「民主党政権も含めたこれまでの『獣医学部の新設』への対応」と題した文書を配布。この文書では、
「平成19年(2007年)から8年近く、今治市が唯一の提案者として、提案を続けている。これに応えた(編注:民主党の)鳩山政権が、平成22年(2010年)3月の『対応方針』を『対応不可』から『実現に向け検討』に格上げする政府決定を行った」
と説明。また、今治市の提案には
「大学設置母体は『学校法人加計学園』と明記されている」
とした。これに加えて、民主党政権下の11年2月25日の衆院予算委員会で、民主党議員の質問に、当時の文部科学副大臣が
「獣医師の確保について懸念があると認識し、特区実現に極めて前向きな答弁を行った」
と指摘している。
菅義偉官房長官も5月30日午後の記者会見で国家戦略特区について「是非、少し勉強して欲しい」として、文書に書かれた内容を改めて説明。
「民主党政権の間『実現に向けて検討』ということでずっと来て、たなざらしになっていたものを、安倍内閣で今回結果が出た。それが客観的な事実で、何も、今、安倍政権になって、急に出てきたわけじゃない」
と主張した。
「構造改革特区」と「国家戦略特区」は「全く違う」
こういった政府の主張に、民進党は反発している。野田佳彦幹事長は5月29日の記者会見で、民主党政権下の「特区」は、ボトムアップで(地方から)上がってきたものについて、検討を加えていく「構造改革特区」だったのに対して、安倍政権下の13年12月から制度がスタートした「国家戦略特区」はトップダウン型だと説明。
「総理の意向とか、誰かへの忖度(そんたく)とか、トップダウン型(の安倍政権下の国家戦略特区)とボトムアップ型(民主党政権下の構造改革特区)とは全く違う。同じ前提であったかのように議論をすりかえるのはまさに国民に誤解を与える」
などと政府の主張を非難した。これに加えて、産経新聞によると、蓮舫代表は翌30日の「次の内閣」閣議で
「よくここまで見事な印象操作を作り上げると驚いた」
と述べ、野田氏と同様の主張を展開した。
自民党政権では「対応不可」だった対応方針を民主党政権が「実現に向け検討」に「格上げ」したとする政府側の主張について、現時点では野田幹事長は直接の反論を展開していない。半面、「構造改革特区」と「国家戦略特区」は性格が異なるという指摘については、菅氏は5月31日夕方時点で反論しておらず、議論はすれ違った状態だ。