昭和期の首相・池田勇人(1899~1965)を主人公に、その活躍をアツく描く異色作として注目を集めていた大和田秀樹さんの漫画「疾風の勇人 所得倍増伝説!!」が、突如終了するとアナウンスされ、ファンに驚きを与えている。
実在の政治家が多数登場するだけに、一部では「政界からの圧力では?」という憶測も飛び交う。実際のところはどうなのか、J-CASTニュース編集部は、連載誌「週刊モーニング」(講談社)の編集部に尋ねてみた。
「突然ですが次週でおしまいですなう」
「疾風の勇人」はモーニングで2016年から連載を開始した。戦後日本を舞台に、池田をはじめとする政治家たちが奔走する「ハイパー戦後政治活劇」だ。
作者の大和田さんは、小泉純一郎元首相ら、各国の政治家をモチーフにしたキャラたちが麻雀で超人的なバトルを繰り広げる漫画「ムダヅモ無き改革」(近代麻雀オリジナル、近代麻雀)で知られる。本作でも登場人物はかなり脚色されており、たとえば池田勇人はどぎつい広島弁を話し、親友の佐藤栄作とはしばしば殴り合いのケンカを繰り広げる一方、権力者やGHQなどにも屈しない、熱血の快男児として描かれている。
フリースタイル社刊行の「このマンガを読め!」2017年版では、第2位にランクイン。新聞や雑誌でもたびたび取り上げられ、4月21日に最新5巻が発売された際には、池田の出身地・広島県内限定のフェアが展開されるなど、注目作となっていた。
ところが5月25日発売の「モーニング」で、次回で「最終回」となることが発表、作者の大和田さんも26日、
「突然ですが『疾風の勇人』は次週でおしまいですなう。第三章『死闘!55年体制編』、第四章『宏池会爆誕編』の再開は未定ですなう」
とツイートした。連載は1954年の吉田内閣総辞職とまさに山場を迎えているが、池田が首相になるのはまだまだ先の話だ。不完全燃焼の感は否めない。
去年ごろから連載終了が決まっていた
連載終了が話題になると、ネットを中心にある「憶測」が語られるようになった。実在の政治家が多数登場するだけに、その筋からのなんらかのクレームがあったのでは?というのだ。
特に話題になったのが、「岸信介」だ。ほとんどの登場人物が美形、あるいはデフォルメ化されて描かれているにもかかわらず、岸はほぼ肖像写真そのまま、しかも、後に「昭和の妖怪」と称されたのをなぞるように、妖しげなオーラを振りまく敵役として登場する。岸は安倍晋三首相の祖父だ。そのことが、一部の人たちの憶測を加速させた。
J-CASTニュース編集部は2017年5月29日、モーニング編集部に電話取材した。
――連載終了をめぐって、圧力があったのでは?との憶測がありますが。
「そうですね。しかし、そういったことはまったくありません」
――まったくですか。
「はい、まったく」
担当者はそう断言した。連載終了自体は事実で、再開の予定もないという。詳しい理由については語らなかったが、「去年くらいから、このタイミングで終わるということで決まっていました」という。単行本は、全7巻での完結となる。
連載終了について、漫画家の吉田戦車さんがツイッターで、「愛読してたので残念なり」とコメントしているほか、岩手県の達増拓也知事も、
「『疾風の勇人』を読んだおかげで、池田勇人という人の日本政治史上の大切さを改めて考えさせられました。敗戦・占領からの復興と自立、そして国民生活の向上に集中する政治。それと対立したのは誰か、後の政治家は何を引き継いだか。今の日本にとって大事なテーマ」
とツイートしている。