落語家の桂ざこばさん(69)が2017年5月27日、稽古に向かう途中で脳梗塞を発症していることがわかり緊急入院したと、所属事務所の米朝事務所が発表した。
病院で精密検査をしたところ「左中大脳動脈閉塞症」「塞栓性(そくせんせい)脳梗塞」と診断され、1か月以上の入院が必要となるため芝居や落語会などを当面休演するという。
聞きなれない病名のようだが、血管がつまり脳梗塞を起こすという典型的な発症パターンのようだ。
突然の異常は脳梗塞を疑う
「塞栓性脳梗塞」はその名の通り、脳の血管が「塞がって栓」をされてしまい発症する脳梗塞のことだ。心臓にできた血栓(血液の塊)や動脈硬化を起こしている血管の壁からはがれた脂肪の破片などが血流に乗って脳に到達。血流を遮断して脳の壊死、つまり脳梗塞を引き起こす。
また、動脈の壁に脂肪が蓄積し血流が滞るようになるとそれ自体が塞栓を引き起こすだけでなく、血栓ができやすくなるためよりリスクが高くなる。高血圧や動脈硬化が脳梗塞リスクを高めるといわれるのはこうした理由からだ。インターネット上の医学情報マニュアル「MSDマニュアル」によるとこの他にも心臓に関連した病気の発症歴がある人や、血液の粘度が高くなる病気にり患している人も血栓ができるリスクが高まるとしている。
では「左中大脳動脈閉塞症」は何かといえば、脳のどの血管が塞がってしまったのかを指す症状名だ。「中大脳動脈」とは大脳を通る血管で、国立循環器病研究センターの循環器病情報サービスによると、特に脳梗塞が起こりやすい血管だという。症状や病気の名前こそ難解だが、発表されている情報から推測すると大脳の血管を詰まり脳梗塞を起こしたという典型的な発症だったのだろう。
報道では稽古場に到着したざこばさんの足取りが乱れており、ろれつが回らない状態になっていることに気がついた関係者が救急車を呼び緊急入院となったようだが、これも典型的な脳梗塞の症状だ。詰まってしまった血管の部位や重症度によって視界がかすむ、麻痺、めまい、錯乱、昏倒などさまざまだが、MSDマニュアルによるとこれらの症状は突然起こり、始まって2~3分後に最も重くなるという。
脳梗塞以外でもこうした症状は表れるが、国立循環器病研究センターは脳梗塞が疑われる人がいた場合のテスト方法として、米脳卒中協会が提唱する「FAST」を推奨している。「笑顔をつくる(Face)」「両腕を前に上げたままキープする(Arm)」「短い文章をスムーズに話す(Speech)」を確認し、「顔の片方が下がる、ゆがむ」「片腕に力が入らない」「言葉が出ずろれつが回らない」など症状がどれか1つでもあてはまれば、すぐに119番を呼びその際症状に気がついた「時刻(Time)」を告げるというもので、緊急受診の目安になるという。
死なないから大丈夫、ではない
かつては三大死因に含まれていた脳梗塞を含む「脳血管疾患」だが、厚生労働省の「2016年人口動態統計」では「がん」「心疾患」「肺炎」に次ぐ4位となっている。外科的な手術法の進歩に加え、血栓を溶かす治療薬や血栓をできにくくする薬も登場しており、治せない病気というわけでもない。MSDマニュアルでは閉塞や血栓によって脳梗塞を発症した人の約3分の1は、すべてまたはほとんどの機能が回復するとしており、身体機能の温存も期待できる。
しかし同時に介護が必要となる「寝たきり」の大きな原因になっているとも指摘されており、「命が助かるなら大丈夫」と思えるような軽い病気でもないことは確かだ。国立循環器病研究センターは脳梗塞も含めた脳卒中の予防法として、5大危険因子「高血圧」「糖尿病」「脂質異常症」「不整脈」「喫煙」を改善する生活習慣を送るよう提唱している。