発達障害の人が見る・聞く驚きの世界 最新科学と当事者が明かす向き合う方法(後編)

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   【NHKスペシャル 発達障害大特集】(NHK)2017年5月21日放送

   発達障害 解明される未知の世界

   小中学生の15人に1人と言われる「発達障害」。最新の脳科学研究や当事者への聞き取りにより、発達障害の人は生まれつき、独特の「世界の見え方・聞こえ方」をしているケースが多いことがわかってきた。多くの人にとって何でもない日常空間が、耐えられないほどまぶしく見えたり、小さな物音が大音量に聞こえたりしてパニックに陥るのだ。

   番組では、当事者の感覚・認知の世界をNHKならではの技術で映像化。誤解されてきた行動の裏にある「本当の理由」に迫り、これまでわかってもらえなかった当事者の思いを生放送で発信した。後編では発達障害の人の「能力」に注目する世界と日本の企業の動きを紹介、働き方を考える。

  • 企業も「能力」に注目し始めた
    企業も「能力」に注目し始めた
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「普通って何? 周りに合わせられないこと?」

   自閉スペクトラム症の当事者リラさん(33)は無職だ。今日も就労支援の施設に通い、仕事を探している、あちこちの職場を転々としたが、感覚が過敏のためなじめなかった。食品製造の仕事ではニオイが辛い。事務の仕事では、周囲の同僚との何気ない会話に付いて行けない。

   発達障害の人には今、別の「障害」が心配されている。「二次障害」だ。発達障害のために社会に受け入れられないことで、「うつ」「不安障害」「強迫症」「統合失調症」「不登校」「引きこもり」などになることだ。英国の研究では、自閉スペクトラム症の人は、最大で70%がうつになるという。リラさん自身もうつを患っている。リラさんは、自閉スペクトラム症の当事者の集まりに顔を出した。若い女性ばかりだ。みな、口々に「普通ではない」自分のことを話した。

   「普通って何? 周りに合わせられないこと? 溝を埋める努力はしているんだけど」「相手と目を合わせて話せないからヘンに見られる。このくらい相手を見つめるとヘンに思われないだろう、このくらいうなずけば大丈夫だろうと考えながら話すと、ヘトヘトになる」

   発達障害の人は「普通ではない」と見られることに苦しんでいる。ところが最近、企業が発達障害の人の「特性」「能力」に注目、貴重な人材として採用する動きが世界で広がっている。

プログラムの最終チェックを任すマイクロソフト

   米国ワシントン州レドモントにあるIT大手マイクロソフトの本社。この会社は、発達障害の人の「特性」に注目し、人材登用の動きを加速させている。この2年間で29人の発達障害の人を採用した。その1人、20代の女性はプログラムの最終チェックを任されている。細部への強いこだわりが欠かせない仕事だからだ。

   同社の採用担当責任者ニール・バーネット氏がこう語った。

   バーネットさん「彼らは非常に細かいところによく気づきます。問題解決能力、記憶力、パターン認識力に優れています。まさに、わが社が探し求めてきた人材と言えるでしょう」

   米ニューヨーク市には、発達障害専門に特化した就労支援企業がある。世界15か国で事業を展開、IT企業やコンサルト会社などを中心に、これまで約1000人以上に仕事を斡旋してきた。この会社と提携しているのはマイクロソフト、IBM、レゴ、ノキア、HOFOR、OTICONなど世界的な企業約100社。同社のCEOのトーキル・ソーフェ氏はこう語った。

ソーフェさん「世界中の企業がイノベーションをもたらす人材を確保しようと躍起になっています。経済がグローバル化する中、何か革新的なものを生み出さないと、競争には勝てません。そのためには、『他人と違うこと』はとても重要です。誰も考えたことがないアイデア、思いつき、新しい見方を提示できる人が必要になります」

あいまいな指示はダメ、具体的な数字で伝える

   日本でも一部の企業で発達障害の人を採用する取り組みが始まった。大阪のIT企業。28歳の男性、伊藤さんが5年前から事務職で働いている。「自閉スペクトラクム症」と診断されている。「障害者枠」で採用され、会計が仕事だ。入社当時は、伊藤さんにどう働いてもらうか、本人も会社も試行錯誤を続けた。直属の女性上司が語る。

   女性上司「入社当時、伊藤さんにオフィスにある植木鉢の水やりを頼みました。『適当に水をやっておいてね』と言ったのがよくなかったのです。ふと、気づいたら、床が水浸しになっているのに驚きました。植木鉢から水があふれているのに、まだ水を注ぎ続けていたのです。そこで、伊藤さんに対しては、『そこらへん』とか『適当に』といったあいまいな指示はやめ、『コップで○杯の水を』と具体的に数字で伝えるというルールを作りました」

   伊藤さんは数字に対するこだわりが非常に強い。小さなミスを絶対に見逃さない。ある社員が17日から22日まで出張した。ところが、出張旅費の細かい請求表を見ると、20日の分だけ交通費の請求がない。伊藤さんは、社員にメールで問い合わせた。その日は出張先で休んでいた。休暇扱いにすれば日当は半分ですみ、会社の利益に貢献する。

   しかし、1年前、伊藤さんの働き方でトラブルが起こった。経理で抜群の能力を発揮するのだから、もう少しできるだろうと業務量を増やした。すると、伊藤さんはミスが増えて、そのことで自分を責め、職場で「うわ~!」と叫ぶようになった。伊藤さんを追い詰めてしまったのだ。

   女性上司「伊藤さんがいないと会計が回らないようになっていました。伊藤さんのスキルを失いたくなかったので、臨床心理士に相談すると、発達障害の人は仕事の幅を広げると大きなストレスになる、得意なことに集中できる環境を作りなさい、と言われました」 元どおりにすると、伊藤さんは調子を取り戻した。伊藤さんはこう語る。

   伊藤さん「自分が必要とされて、お役になっているかと思うとうれしいです」

   伊藤さんの「成功」に気を良くしたこの会社では、その後、発達障害の人をもう1人採用した。

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