あいまいな指示はダメ、具体的な数字で伝える
日本でも一部の企業で発達障害の人を採用する取り組みが始まった。大阪のIT企業。28歳の男性、伊藤さんが5年前から事務職で働いている。「自閉スペクトラクム症」と診断されている。「障害者枠」で採用され、会計が仕事だ。入社当時は、伊藤さんにどう働いてもらうか、本人も会社も試行錯誤を続けた。直属の女性上司が語る。
女性上司「入社当時、伊藤さんにオフィスにある植木鉢の水やりを頼みました。『適当に水をやっておいてね』と言ったのがよくなかったのです。ふと、気づいたら、床が水浸しになっているのに驚きました。植木鉢から水があふれているのに、まだ水を注ぎ続けていたのです。そこで、伊藤さんに対しては、『そこらへん』とか『適当に』といったあいまいな指示はやめ、『コップで○杯の水を』と具体的に数字で伝えるというルールを作りました」
伊藤さんは数字に対するこだわりが非常に強い。小さなミスを絶対に見逃さない。ある社員が17日から22日まで出張した。ところが、出張旅費の細かい請求表を見ると、20日の分だけ交通費の請求がない。伊藤さんは、社員にメールで問い合わせた。その日は出張先で休んでいた。休暇扱いにすれば日当は半分ですみ、会社の利益に貢献する。
しかし、1年前、伊藤さんの働き方でトラブルが起こった。経理で抜群の能力を発揮するのだから、もう少しできるだろうと業務量を増やした。すると、伊藤さんはミスが増えて、そのことで自分を責め、職場で「うわ~!」と叫ぶようになった。伊藤さんを追い詰めてしまったのだ。
女性上司「伊藤さんがいないと会計が回らないようになっていました。伊藤さんのスキルを失いたくなかったので、臨床心理士に相談すると、発達障害の人は仕事の幅を広げると大きなストレスになる、得意なことに集中できる環境を作りなさい、と言われました」 元どおりにすると、伊藤さんは調子を取り戻した。伊藤さんはこう語る。
伊藤さん「自分が必要とされて、お役になっているかと思うとうれしいです」
伊藤さんの「成功」に気を良くしたこの会社では、その後、発達障害の人をもう1人採用した。