発達障害の人が見る・聞く驚きの世界 最新科学と当事者が明かす向き合う方法(中編)

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【NHKスペシャル 発達障害大特集】(NHK)2017年5月21日放送
発達障害 解明される未知の世界

   小中学生の15人に1人と言われる「発達障害」。最新の脳科学研究や当事者への聞き取りにより、発達障害の人は生まれつき、独特の「世界の見え方・聞こえ方」をしているケースが多いことがわかってきた。多くの人にとって何でもない日常空間が、耐えられないほどまぶしく見えたり、小さな物音が大音量に聞こえたりしてパニックに陥るのだ。

   番組では、当事者の感覚・認知の世界をNHKならではの技術で映像化。誤解されてきた行動の裏にある「本当の理由」に迫り、これまでわかってもらえなかった当事者の思いを生放送で発信した。中編では「ADHD(注意欠如・多動性症)」と「LD(学習障害)」の人の独特の世界の見え方を紹介する。

  • 周囲が理解してあげよう
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教室のあちこちに気になるモノが見えるADHDの子

   ADHD(注意欠如・多動性症)の人は「不注意でミスが多い」「よく忘れ物をする」「落ち着きがなく、じっとしていられない」といった特徴を持つ。

   「昔、小学校のクラスにこんな子はいませんでしたか?」というナレーションとともにアニメが映し出された。始業前の教室。リエちゃんに友だちが「宿題やってきた?」と声をかける。「ええっ、宿題?」。リエちゃんはすっかり忘れていた。あわててランドセルの中を見るが、中はグジャグジャだ。授業が始まる。リエちゃんは足をブラブラふり、外ばかり見る。「リエ!こらリエ!どこ見ている!」。先生に叱られ、黒板に集中するリエちゃん。しかし、視線はよそ見ばかり。いつのまにか壁に張ってある「学校音楽会」のポスターに目がいき......。「リエ!リエ!」。先生に何度怒られても直らない。

   リエちゃんには教室の中はどう見えていたのか。「大人のADHD」の人の聞き取り調査から実態がわかってきた。番組では、リエちゃんに見えていた世界を本人の視線から子役を使った「実写映像」で公開した――。

   先生に叱られ、黒板に視線を向けたリエちゃん。でも集中力が長く続かない。いけないことだと分かっているのに、視線が壁の「学校音楽会」のポスターに向いてしまう。すると、音楽の「ト音記号」が目に飛び込んできた。「ト音記号って、どうして『ト音』っていうの?」。気になって仕方がない。「リエ!リエ!」。先生にまた怒られた。黒板の方を見る。今度は前席の幸ちゃんの後ろ髪を留めているシュシュ(髪留め)が目に飛び込んできた。ピンク色の可愛いシュシュ。「ふんわりしてお花みたい」。すっかりシュシュに見入って、授業が頭から飛んで行った......。

   実はリエちゃんには実在モデルがいる。リエちゃんの30数年後の人物が、現在もADHD当事者である理絵さん(46)だ。番組スタッフが自宅を訪れると、部屋の中は散らかり放題。片づけるのが苦手なのだ。椅子に坐り、インタビューをしている最中に、理絵さんの頭上にバサッと「ゴミ」が落ちてきた、背後の机に山積みされた紙くずが崩れたのだ。

   理絵さん「ごめんなさい。また雪崩(なだれ)ちゃった(笑)。今も集中することが苦手で、何を捨てるか捨てないか判断ができないのです。ADHDはだらしがない、みっともないと見えるけど、本人が一番困っています。片づけなくてはいけないとわかっているのですが、どうしたらよいかわからないのです。ぜひ、そのことを理解してほしいのです」

「りんご」の音読1つでも脳は複雑な処理を

   続いて、「読み書きをすることが非常の困難」という特性を持つLD(学習障害)の人の場合。「昔、小学校のクラスにこんな子はいませんでしたか?」というナレーションとともにアニメが映し出された。国語の授業の朗読の時間。先生に指名され、タダシ君が教科書を音読しようとする。「い、い、い...」と、つっかえてしまう。「いちばん...」という言葉がスムーズに読めない。クスクス笑うクラスの子たち。タダシ君は恥ずかしさと緊張でますます読めなくなる。先生が「なぜ家で練習してこなかった!」と怒った。泣きそうになるタダシ君。

   なぜ、タダシ君はスラスラと読めないのか。最新研究で、LDの人の脳の仕組みが明らかになった。たとえば、私たちが「りんご」という単純な言葉を音読する時にも、脳は次の段階をふむことがわかった。

(1)教科書の「りんご」という文字の形を目で見る。
(2)脳の記憶にある「辞書」の中から、「りんご」という文字の形を選び出し、教科書の「りんご」と形が合っているかどうか照合する。
(3)次に、その「辞書」に載っている読み方=「ri・n・go」(リンゴ)と、意味=「赤い果物」を読み、理解する。
(4)脳から口に「この文字は『ri・n・go=リンゴ』と読むのだよ」と指令が行き、「りんご」と発音する。

   これだけ複雑な過程を経て、「りんご」と音読する。ところが、LDの人は、脳の情報処理がうまくいかず、(2)の脳の辞書と照合する時に時間がかかってしまう。だから、声を出す時につっかえるのだ。

   タダシ君本人は音読のシーンをどうとらえていたのか。実写映像を公開した――。タダシ君は教科書を見た。「いちばんしまいに...」という字が飛び込んできた。「い・ち・ば・ん? この字はどこで区切るのだろう? 『いち』か?『いちば』か? い、い、いち...」。クスクス笑う声が聞こえてきた。周りが気になってしかたがない。体が熱くなる。文字がぼやけてきた......。

   タダシ君にも実在モデルがいる。LDの当事者で、現在51歳の忠さん。特別支援学校で技術の授業を担当している。今も読み書きが困難だ。書類の文字を、1つ1つ指で追いながら何とか読んでいる。

   忠さん「文字を読むことに全神経を注いでいます。もう頭がフル回転です。とても疲れます」

   MCの井ノ原快彦「こんなにも大変だったとは。確かに子どもの時にいましたね、こんな子たちが。アイツ、どうして家で勉強してこなかったのか、やる気がないなと思った自分を思い出しました」

   MCの有働由美子アナが、番組に寄せられた約4000通のメールから当事者の声を次々と紹介する。

「私もADHDです。よく忘れ物をしてはパニックになりました。友だちからキモイと言われました」
    「ADHDを友だちにカミングアウトすると、翌日から子ども扱いされました」
    「私はADHDです。ADHDは個性の1つと言いますが、個性が過ぎると周りに迷惑をかけます。どこまでが個性で、どこからが障害なのか、迷っています」

どこまでが「個性」で、どこからが「障害」か

   発達障害の研究が専門の信州大学医学部付属病院の本田秀夫医師がこうアドバイスした。

本田医師「多かれ少なかれ、片づけるのが苦手な人がいます。どの程度までが個性かは周りの人の見方によると思います。『字なんかきちんと読めなくてもいいよ』と周囲が全面的に受け入れてくれれば、困りません。仕事も字を気にしなくてもすむ選択方法もあります」

   後編では、発達障害の人々の「能力」に注目して積極的に受けいれる企業の動きを紹介する。

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