未成年者が簡単にどこでもネット上で買い物ができるという現実に恐怖さえも感じました――。
埼玉在住の主婦Aさん(51)は、記者にこう話す。高校2年の息子が両親の目を盗み、インターネット通販およびフリマアプリに没頭。わずか2か月半で30万円近い売買を繰り返していたという。未成年者におけるEコマース(電子商取引)の利用をめぐっては、各事業者そろって「親権者などの承諾」が必要不可欠だと謳っているが、実態はどうなっているのか。
人気アイドルのグッズを売買
Aさんは、夫と息子3人の5人で暮らす共働き家庭だ。一番下の息子は現在高2で、高校に上がったタイミングでスマートフォンを買い与えた。
しかし、最近では高2の息子にスマホへの依存傾向がみられ、Aさんの心配事の1つだった。そんな折、息子がネット通販「アマゾン」から商品を受け取った様子を発見した。両親は全く承知しておらず、さきの懸念もあったためスマホを従来型携帯(ガラケー)に戻すことを決心した。
予想外の「事件」は立て続けに起きる。携帯ショップでスマホの解約手続き中、こんなプッシュ通知が届く。「商品が売れました」。送り主は、定額で商品を出品・購入できるフリマアプリ「メルカリ」だ。
両親が問い詰めると、高2の息子はすべてを白状した。2017年2月に友人と共同でメルカリのアカウントを作成し5月2日に発覚するまで、総額20万円にもおよぶアイドルの写真や書籍、CDを売買していたのだ。アマゾンも同様の手段でアカウントを作成し、2つのサービスでの売買は計30万円にものぼった。概ね、購入9割、販売1割だった。
Aさんは、「当然息子にも落ち度はあります」としつつ、
「ただ、我が家だけでしょうか?私は、我が家だけでなく未成年者がアカウントを作成し、売買していることを知らない保護者がたくさんいるのではないかと考えます」
と話す。
10代利用者増加もトラブル多発
未成年者とEコマースをめぐる現状はどうなっているのか。
ソフトウェア開発を手がける「ジャストシステム」の17年4月調査では、10代のEコマース利用経験者は男性が48.0%、女性で30.0%だった。利用金額では、1万円~5万円が21.7%、5~10万円で3.3%と高額利用も少なくない。
この調査から、若年層でもEコマースが一般化している現状がうかがえる。そのきっかけとなったのは、フリマアプリ「メルカリ」だ。
個人間Eコマース(CtoC)の分野ではこれまで、オークションサイト「ヤフオク」が20代以降のパソコンユーザーを中心に圧倒的なシェアを誇っていた。しかし、スマホから気軽に出品・購入ができる「メルカリ」が13年7月に登場し、これまでネット取引と接点の無かった10代のライトユーザーの獲得に成功した。
アマゾンも、学生向け会員プログラム「アマゾンスチューデント」を打ちだし、ライフサイクルの早い段階での囲い込みを狙う。
10代の「社会インフラ」として成長を続けるEコマースだが、一方でトラブルも頻発している。
メルカリでは、現金やチャージ済み交通系ICカード、領収書などが販売され、「マネーロンダリング」(資金洗浄)の温床になっているとの指摘が相次いだ(現在は禁止措置済み)。
アマゾンにおいては、個人や企業が「出品」する形をとるマーケットプレイスで、人気商品が定価の半額以下と「格安」で販売してあるものの、実際には商品が届かず個人情報の抜き取りやアカウントが乗っ取られるという詐欺行為が問題となっている。
「小学生でも利用できてしまう」
事業者は、未成年者とどう向き合っているのか。
多くのEコマースサービスは、利用規約で、20歳以下は親権者などの同意がないと利用ができない、といった旨の記載をしている。
「ユーザーが未成年者である場合は、事前に親権者など法定代理人の包括的な同意を得たうえで本サービスを利用しなければなりません。ユーザーが未成年者である場合は、親権者の同意の有無に関して、弊社から親権者に対し、確認の連絡をする場合があります」(メルカリ)
「Amazon.co.jpは子供向けのアマゾンサービスも販売していますが、販売する相手は成人(20歳以上)のお客様に限られます。20歳未満のお客様は、親権者または後見人が承諾する場合に限り、アマゾンサービスをご利用になれます」(アマゾン)
これらの規約は、アカウント作成時の登録ページ末尾にリンクが張られているが、規約に同意するチェックボックスや同意書の提出はない。年齢や生年月日の入力も求められない。
こうした管理体制に前述のAさんは、
「早く言えば、携帯を持っている小学生でもアカウントを作ることができます。今時の子供を取り巻く環境が電子化されている現状の中で、未成年の登録販売が制限されることなく簡単にできてしまう。作ってもらう側からすれば、規約の中に未成年の同意は記載してあるといえばそれで済むかもしれませんが、これでは保護者の同意も何も行われなくても業者側にはわからない、自己責任でということにしかならないと実感しました」
と訴えている。
事業者は、この未成年者に関する利用規約をどう担保しているのか。
メルカリの広報担当者は5月24日、
「未成年の利用に際して法定代理人の同意を得るよう求めていますが、ユーザーの利便性を考えてそれを確認する仕組みはご用意しておりません」
と答えた。年齢や生年月日の入力を求めない理由については、「サービス設計にあたっては、お客さまの利便性と安全性を考慮して決定を行っています」としている。
アマゾンの広報担当者は24日、「コメントを控えさせていただきます」と取材には応じなかった。
取引を取り消すよう親が求めた場合は...
これらの規約について法律上問題は無いのだろうか。
弁護士法人・響の徳原聖雨弁護士は、「利用規約を掲載しなければいけないという義務は法律上特にないです」と答える。
「ただ、なぜ載せているかというと、トラブル時のリスク回避のためです。ユーザーが事業者にいざこざを持ちこんできた際、『あなたは規約に同意してますよね』と応対するための材料に使います」
子どもが無断で同意していたため取引を取り消すよう親が求めた場合にも、同様の「反論」が予想されるという。しかし、
「子どもが親の委任状や同意書を偽装するなど積極的に詐称した場合には、取引の取り消しを求めることは難しいです。ですが、Eコマースのようにボタンを押すだけで簡単に同意したとみなす場合、だましたといえるかというと個人的には争う余地があると思います」
規約をめぐってトラブルが起きた際は、弁護士や国民消費者センターに相談するのも有効だと徳原弁護士はアドバイスする。
また、前述のAさんは、こうも話していた。
「我が家のような出来事がこれから増えないように、未成年者のネット上でのアカウント作成の制限が何かしら厳しくなることを願います。どなたかが、どのような形でも構いません。このような現実があることを保護者の方に知っていただき、スマホの画面を覗いて欲しいです」