契約や金銭の支払いに関するルールを定めた民法の規定(債権法)の改正案が2017年5月26日、参議院本会議で可決、成立した。近く、閣議決定を経て公布される。じつに120年ぶりの大改革だ。
債権分野の現行法は1896(明治29)年の制定後、口語体に変更するなどの改正があったものの、実質的な見直しがほとんど行われることがなかった。今回の改正は、企業の定款や契約書の見直しを伴うケースも想定されるため、企業、消費者の双方にとって大きな影響がある。
ネット通販にも大きな影響
改正債権法は、インターネット取引の拡大などを受けて、企業が不特定多数の契約者に示す約款に関する規定を新たに設け、消費者の利益を一方的に害する約款条項を無効にするなど、消費者保護のための規定を盛り込んだ。なにしろ、120年も手を付けていなかった法律だ。それを「現代版」に修正した。
今回の法律改正でなにが変わるかというと、たとえば、インターネット取引をする際に画面上に示される約款で、「返品は、その理由を問わず一切できません」とされている場合、その条項が無効となる可能性がある。
おしゃれなドレスシャツを買ったが、縫製のほつれが見つかった。商品を買った通販サイトにメールで問い合わせたが、「返品できないと約款に書いてある」と返事があった。こうした場合、これまでは泣き寝入りするケースが少なくなかったが、約款にある条項が無効になるので、通販サイト、あるいはメーカーは返品に応じる必要が出てくる。
お金の支払い請求の時効も変わる。これまでお金の支払い請求の時効は、たとえば個人がお金を貸し借りした場合は「10 年」であるのに対して、飲食店での「ツケ払い」や宿泊代、ミュージシャンやタレント、大工や左官などの職人の報酬(労働債権)、宅配便や引越しのトラック、タクシーなどの代金は「1年」で時効が消滅していた。
農業や製造業、卸売・小売業者などの売掛債権や、ガスや電気、水道料金などの公共料金の時効は「2年」。病院やクリニックでの手術や入院、薬代などの医療報酬は「3年」と、業種によって短期の消滅時効が定められていた。
こうした業種による「短期消滅時効」が廃止され、お金の支払い請求の時効基準が「5年」に統一された。個人の金銭の貸し借りは時効までの期限が短縮されたが、飲食店の「ツケ払い」などは長くなったわけだ。
根保証に「極度額」 新たに保証人の保護規定盛り込む
これまで裁判でもめるケースが多くみられた賃貸借の敷金の返還では、今回の改正で敷金を返還すべき要件や時期が法令で明文化された。たとえば、アパートの部屋を借りた人が、通常の暮らしによって生じた部屋の損耗や経年変化の原状回復にかかる義務を負わないことになった。
現行、契約書で利率を定めない場合に適用される年5%の法定利率は「年3%」に変更。さらに、3年ごとに1%刻みで見直される変動型に見直した。あわせて、年6%とされる商事法定利率(商行為による債権に適用される、商法上の利率)を削除した。
また、これまで他人の保証人になったばかりに借金を背負わされるケースが少なくなかったことから、改正債権法では「保証人保護」のための規定を設けた。
事業のための借入れ時に個人が保証人となる場合、経営者(役員や共同事業者、事業に従事する配偶者など)以外の保証については、保証人が契約締結前1か月以内に作成した「公正証書」で保証の意思を表示しなければ、保証は無効となるほか、保証人に対する情報提供義務(契約締結時、債務の履行状況など)を明文化した。
個人の根保証(保証債務の金額が不確定なもの)は種類を問わず、一律に保証の上限額(極度額)を定めないと無効となる。
西村あさひ法律事務所の高木弘明弁護士は、「今回の民法改正には、インターネット取引や保険に関する約款の規定など、中小企業を含めた事業者の対応が必要になる項目が含まれています。施行までまだ時間はありますが、早めの対応が必要です。」と話している。
改正債権法は、公布3年後までに施行される。