稀勢の里、休場。今年のスポーツ界で「最大のガッカリ」である。
面倒くさい故障らしく、力士生命を危ぶむ声もあって、角界を襲ったショックは計り知れなく大きい。
懸賞の数は大幅増
「2219」と「608」
この数字は何を示すか。夏場所(2017年5月14-28日)が始まる前の懸賞の数である。前者は15日間の全体数であり、後者は稀勢の里に懸けられたものだ。
場所が始まると、稀勢の里の取り組みのとき、懸賞が土俵をぐるりと回る。それが3回も行われるから、場内の歓声がその度に大きくなった。だいたい一取り組みで50本ほど。懸賞の手取りは3万円だから150万円になる。
初日、いきなり稀勢の里がつまずいた。勝ったのは巧者嘉風。懸賞が52本だったから156万円を手にした。
待望の日本人横綱への期待はすさまじかった。稀勢の里への懸賞は春場所より倍増。全体数では新記録となった。
その人気者が6勝4敗の後、11日目(24日)に休場。フィーバーが姿を消しショックが襲った。全国のファンのため息が聞こえるようだった。
「(11日目の)懸賞はどうなるんだ」
「各取り組みに振り分けられる」
休場理由そっちのけで、そんなやりとりが交わされたというエピソードがあったという。
「左上腕と左大胸筋の損傷。1か月の加療」
左上腕は春場所で痛めたところで、稀勢の里は、腕が動かない、と親方に訴えたそうである。入門してから休場したのは14年初場所千秋楽の1日だけ。それだけに悔しかったと思う。
年齢が最大の敵
気になるデータがある。30歳を過ぎてから横綱になった力士は短命ということだ。
琴櫻(昇進32歳1か月)は8場所(番付上は9場所)で引退。三重ノ海(31歳5か月)8場所。旭富士(30歳0か月)9場所。隆の里(30歳9か月)がもっとも長かったが、それでも15場所。この横綱たちは31歳から33歳で引退している。
稀勢の里が今年3月に横綱になったとき30歳6か月。初土俵から89場所、新入幕から73場所。大関31場所という超スローの頂点だった。
30歳というのは、力士としては晩年とはいわないまでも後半生。年齢が最大の敵なのはどのスポーツも同じである。横綱昇進のときがもっとも強い時期だとしても30歳になってからそれを保ち続けるのは厳しい。
この場所が始まる前、休場した方がいい、という指摘が関係者を含めて各方面からあった。それでも出場に踏み切った稀勢の里はファンの期待に応えたい一心だったのだろう。ファンの拍手の重さを知っていたことを思うと切ないとしか言いようがない。
「力士生命に響くのでは...」
これからは期待と同時に不安の見方もたびたび出るだろう。どんな状態でカムバックするのか。角界だけでなく今年後半のスポーツ界最大の関心事となった。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)