「ヘルスケア大学」という医療・健康サイトがある。「記事一つひとつをドクターをはじめとした専門家に監修いただき掲載」し、トップページでは医師5182人が「参画」しているとうたっている。
その「ヘルスケア大学」に、「五本木クリニック」院長の桑満おさむ医師がブログで、記事内容の誤りを数回にわたって指摘している。間違いが多いサイトは一時閉鎖してはどうかと提案するが、サイトを運営する「リッチメディア」社は、必要に応じての記事修正や精査による改善を進めるという。双方を取材した。
「医学知識があれば、間違うことはない」
「私が15分ほど見ただけで、あれだけ医学的な間違いがある。それを見て利用する人がいるかもしれないから、被害者が出る前にいったん閉鎖して見直せばいいじゃないですか」
J-CASTニュースの取材にこう話す桑満氏。「医学的な間違いがある」という記事の具体例は、 2017年5月20日付のブログで挙げている。専門の泌尿器科の分野で、「ヘルスケア大学」に掲載されている膀胱(ぼうこう)炎の記事だけを読んだところ、医学的に間違った内容を複数個所見つけたのだ。
桑満氏は以前、「ヘルスケア大学」と同じリッチメディアが運営する「スキンケア大学」というサイトの記事監修を、一時引き受けていた。相当数の原稿に目を通したが、「間違いだらけなので、私が書き直した方が早い」というレベルで、実際に書き直しや再構成した記事もある。その後、監修からは降りた。
「ヘルスケア大学」の掲載記事について、桑満氏は医師の目から内容のレベルをどう見ているのか。先述の膀胱炎の記事であれば、「医学知識があれば、間違うことはない」との指摘だ。例えば、「膀胱炎とは?膀胱炎の症状」と題した記事で、「膀胱炎とは、尿管から入り込んだ大腸菌...」との記述があるが、「尿管というのは、菌が存在しないんです」と話す。なおこの記事は、5月24日付で非公開となっており、代わりに「本記事の内容について、現在、編集部並びに監修医師で内容を再検討しております」と表示される。また、桑満氏が5月20日付ブログで指摘したほかの記事も、すべて同じように非公開措置が取られている(いずれも5月25日18時の時点)。
公開を続ける限り誤った情報が人の目に触れる可能性
桑満氏はこれまでも、再三「ヘルスケア大学」の記事についてブログで内容に誤りがあるのではないかと書いてきた。日付を追っていくと、桑満氏が指摘した後に「非公開」となった記事が複数出てくる。
また、いわゆる「パクリ疑惑」についても桑満氏は話した。「ヘルスケア大学」2016年11月17日公開の「キツネの寄生虫が原因!エキノコックス症とは」という記事についてだ。これは「更新日2017年5月20日」と記載され、現在再公開されている。
取材で桑満氏が指摘したのは、記事中にある「人への感染経路」に関する内容の一部が、別のサイトに掲載されていた記述とまるっきり同じだった点で、17年5月16日付のブログでも触れている。オリジナルとみられるものは15年9月16日付で「北海道石狩振興局」が書いたものだ。一方で記事の公開日は16年11月17日。これは、桑満氏が直接リッチメディア側に伝えたが、先方の反応は「調べます」だったと明かした。同氏の17年5月20日付ブログには「明らかにパクって構成された記事については、社長に直接お伝えしました」との記述がある。
なお5月25日現在、該当部分には「参考文献」として、石狩振興局と北海道保健福祉部のサイトで参照した個所のURLが明記されている。記事の更新日は17年5月20日付で、桑満氏がブログで指摘した日の後だ。
リッチメディアは17年5月10日に「ヘルスケア大学に対するWebメディア上での疑義に関してのご報告と今後の取り組み」を同社サイト上で公表した。ここでは具体的に見出しとURLを挙げた2本の記事を含め、「一部の記事で指摘の通り修正が必要であることを確認しております」と説明。そのうえで「指摘を受けた記事に関しては、記事を非公開とした上で修正し、医師の監修等の然るべき手順を踏んだ上で、再度公開いたします」とした。
さらに5月22日には「弊社サービスをご利用頂いている皆さまへ」と題して、記事内容の精査について、同社のスタンスと見解を再度発表。「指摘を頂戴しているものについては弊社内で確認がとれ次第、修正」「指摘を頂戴していないものについても再度、自社の企業努力として精査」をする点を示した。
だが桑満氏は、サイト運営を続けながら何万ページもある記事を一定期間内で、専門的な目で精査完了できるのか懐疑的だ。公開を続ける限り、仮に誤った内容があっても見つけられるまでは人の目に触れる可能性がある。現段階で被害の声はないが、もしも深刻な病気やけがの情報で誤りが残り続けたら、影響が出ないとは言い切れないと心配する。第三者が「コピペ」して、知らないところで間違った情報が拡散しないとも限らない。だからこそ、いったん立ち止まってサイトを一時閉鎖した方がいいのではないかと主張する。
要修正の記事「全体に占める割合は少ない」とリッチメディア
J-CASTニュースはリッチメディアに取材を申し込み、桑満氏の指摘を含め複数の質問をしたところ、広報担当者が5月25日に電子メールで以下の通り回答してくれた。
――5月22日の御社発表のなかで「指摘を頂戴しているものについては弊社内で確認がとれ次第、修正」「指摘を頂戴していないものについても再度、自社の企業努力として精査」とございます。それぞれ、記事の本数がおおよそ何本で、おおよそいつまでに作業を完了する予定か教えていただけますか。
「指摘等をいただき修正が必要として確認できた記事は17本で、すでに見直しを実施しております。社内の再確認により修正の必要がある記事については、一定数認識されているものの、記事全体に占める割合は少ない状況です。記事の総数に関し、正確な数字は公表しておりませんが、数万ページとなっております。我々が発信している情報に誤りがある場合には、その誤りに対して真摯に向き合い、迅速に確認・修正の対応をとることによって、正しい情報の発信を追求し続けます」
――五本木クリニック院長の桑満おさむ氏が5月20日付のブログの中で、「ヘルスケア大学」の記事内容に関する指摘をはじめ、かなり踏み込んで書かれています。この中で、御社の主張として納得できない部分や反論がございましたら、お願いします。
「情報に誤りがある場合には、その誤りに対して真摯に向き合い、迅速に確認・修正の対応をとることによって、正しい情報を発信致します。情報の誤り以外のことに関しては、今後法的な対応も含め検討をしておりますので、こちらでの反論は控えさせていただきます」
――桑満氏の同ブログの中で「明らかにパクって構成された記事については、社長に直接お伝えしました...」という記述がございました。この部分だけを見ますと、「ヘルスケア大学」の記事に「パクり」があったように読み取れます。これは事実かどうかを含めまして、御社の見解をお聞かせください(編注:この後追加で、2016年11月17日公開の「キツネの寄生虫が原因!エキノコックス症とは」という記事を挙げて、桑満氏の指摘後に「参考文献」が表記された点の経緯説明を求めた)。
「記事の内容に関しては、一般的な内容を記載しておりますが、参考文献として当初より記載していた北海道保健福祉部のサイトからリンクされた別サイトについて記載がされていないなど、参考文献等に関しエチケットの部分に不備がございましたので対応致しました。今後はエチケットの部分も含め真摯に向き合い、迅速に確認・修正の対応をとり、正しい情報の発信に努めます」
――桑満氏は「ヘルスケア大学」サイトの一時閉鎖を提案したとブログにございましたが、その予定やお考えはありますでしょうか。
「間違っている可能性がある記事については、一定数認識されているものの、記事全体に占める割合は少ない状況です。現在ご指摘を頂いている一部記事については、通常のお問い合わせ対応と同じく事実確認のうえで対応を行っております。なお、対応中の記事については『本記事の内容について、現在、編集部並びに監修医師で内容を再検討しております。ユーザーの皆様にはご迷惑をおかけしており申し訳ございません。最新のエビデンスを考慮しながら、事実に基づいて、誠実に対応してまいります』との表示となっております。
――「ヘルスケア大学」では、「参画ドクター数: 5182名」とあります。「参画」の定義を教えてください。また、5182人の方をどのような方法で集められたのでしょうか。
「トップページ上部の参画医師数は弊社運営媒体合計数となります。一方各媒体での『医師・専門家を探す』ページでは、各媒体に参画いただいている医師等の数となっております。つまり2017年5月10日時点での5218名は弊社運営の『ヘルスケア大学』『スキンケア、メンズスキンケア大学』への参画医師数となり、『ヘルスケア大学』内の『医師・専門家を探す』ページに記載されている『医師:4613人、専門家:93人』は、「ヘルスケア大学』への参画医師等の数となります。
参画の定義ですが、『記事を監修していただくことに了解をしていただいた医師』になります。弊社では医師対応担当者が病院に伺い、弊社サイトや依頼内容等について説明し、ご納得を頂いた上で医師もしくは医療機関と契約を締結し、正式に参画頂き当該契約に基づき医療機関や医師の情報を掲載しております。
最後に弊社では、医療・ヘルスケア領域において信頼できる正しい情報をお届けすることを何よりも大事にしております。情報の信頼性担保の具体的な取り組みとして、医学的根拠(エビデンス)の収集、専門家の監修による記事配信を行っております。また、上記の取り組み以外にも、メディアとしての信頼性を向上し続けられるよう、コンテンツ制作フロー・体制を改善し続けてまいります」