さわやかな風を受けながら颯爽と自転車で走る季節がやってきたが、男性サイクリストの中には今ひとつ心が晴れない人もいるだろう。「自転車に長く乗り続けるとED(勃起障害)になる」という心配があるからだ。
そんな暗雲を吹き飛ばす研究が、2017年5月12日~16日に米国ボストンで開かれた米国泌尿器科学会で発表された。「大丈夫、安心して乗って! 遠距離を走るサイクリストほど性機能は高くなる」という報告だ。しかも、EDどころか、そのパワーたるや他の運動選手より強いという。
かつては「EDが3~4倍多い」という研究も
実は、「自転車を長く乗り続けるとEDになる」という衝撃の報告を最初に発表したのは米国泌尿器科学会の研究班だ。1997年のことだ。自転車でパトロールをする都市部の警察官にEDが多いことから調査を始めた。ボストンの男性サイクリストとランナーを比較した結果、「中程度~完全なED」である者は、ランナー群が1.1%だったのに対し、サイクリスト群は約4倍の4.2%だった。続いて1999年に独ケルン大学が同様の報告を発表した。アマチュアの長距離サイクリストと非サイクリストのED発症率を調べると、非サイクリスト群が3.9%だったのに対し、サイクリスト群は13.1%だった。こちらも3.4倍である。
ただし、ママチャリを普通に乗っている分にはまったく心配ない。問題なのは、きつい前傾姿勢をとるスポーツタイプ。硬く細長いサドルが局所(会陰部)を圧迫するからだ。「自転車ED」が起こるメカニズムはこうだ。勃起は、性的興奮状態になると、脳の勃起中枢から神経を伝わりペニスに指示が行き、ペニスの海綿体に血液が充満して起こる。一方、会陰部にはアルコック管というパイプがあり、中に勃起に重要な役割を果たす動脈と神経が走っている。この狭いパイプをサドルが圧迫すると、パイプ管が損傷し、中の血管と神経がダメージを受け、勃起しにくくなる。
こうした海外の「自転車ED」研究を受け、日本性機能学会も2012年版の「ED診療ガイドライン」から、「自転車は注意が必要」「乗車時間とEDの間には明らかな相関関係がある」と記載し注意を促している。
さて、米国泌尿器科学会の2017年5月14日付プレスリリースによると、同学会が初めて「自転車ED」を発表してから20年、世界的な自転車ブームを受け、「本当に自転車に乗っても性機能に問題はないか、国民は知る権利がある」として再調査を行なうことにしたという。学会の研究班は世界中のスポーツクラブに所属する男性から任意に約4000人をピックアップ、性の健康状態や身体活動、前立腺症状などに関する詳細なアンケート調査を行なった。また、自転車愛好者にはサドルの形状も聞いた。
心臓機能の向上がマイナスを上回る効果に
対象者のうち63%がもっぱら自転車競技の愛好者で、ランニングや水泳はしていなかった。37%は自転車に乗らず、水泳やランニングなどを行なっていた。その結果、次のことがわかった。
(1)EDになるリスクや前立腺の症状は、自転車愛好者はランニング・水泳愛好者に比べ、(統計上)特に悪いとはいえなかった。ただし、使用するサドルの形に関係なく、会陰部に「しびれ」があると訴える人が多かった。
(2)週に何回セックスをするか、性行為による満足度などの「性の健康スコア」の平均を比べると、自転車愛好者の方がランニング・水泳愛好者よりも高かった。
自転車の方がランニングや水泳より「オトコの機能」にいいようだ。これはどういうわけか。学会の広報担当のケビン・マクバリー医師はこうコメントしている。
「自転車競技は、心臓血管機能を高めることに大いに貢献しています。それが会陰部や前立腺などに与えるマイナス面を上回る効果を上げているのでしょう。これは股間のしびれなどが、必ずしも性的機能に有害ではないことを示しています。安心して自転車に乗り続けていいのです」