自衛隊制服組トップの河野克俊統合幕僚長が2017年5月23日に東京・有楽町の日本外国特派員協会で開いた会見で、安倍晋三首相が自衛隊の位置づけを憲法9条に明記しようとしていることについて「非常にありがたい」と述べた。
河野氏は「一自衛官として」と断っているものの、自衛隊員の政治的行為を制限している自衛隊法との関係について議論になりそうだ。発言は周辺諸国のメディアも報じており、この政治的中立性の問題を指摘している記事もある。
憲法第9条に新設する3項で自衛隊の位置づけを定義
安倍氏は5月3日の読売新聞朝刊のインタビューや改憲派集会に寄せたビデオメッセージで、現行の憲法第9条の1~2項は改正せずに、新設する3項に自衛隊の位置づけを定義したい考えを示した。
記者会見では、このことを念頭に、ブルームバーグの記者が
「安倍首相が今月初め、憲法を変えたいと発言した。今の日本国憲法、法律の中で、自衛隊には『今は制限されてできないが、今後していく必要がある、またはできるようにすべきだ』と考えることはあるか。『自衛隊の存在そのものが憲法違反だ』という考えの専門家もいるが、それについての考えを教えてほしい」
と質問した。
「ただし、一自衛官として申し上げるならば」...
河野氏は、自衛隊の役割の拡大については「政治の決定によるものなので、これについては私からお答えするのは不適当」だとしてコメントを避けた。安倍氏の改憲論については、
「憲法というのは非常に高度な政治問題なので、統幕長という立場から申し上げるのは適当ではないと思っている」
と前置きしながら、
「ただし、一自衛官として申し上げるならば、自衛隊というものの根拠規定が憲法に明記をされるということであれば、されることになれば、非常にありがたいなあとは思います」
と述べた。
自衛隊法は第61条で、隊員が選挙権の行使以外の政治的行為を行ったり、選挙に立候補したり、政党や政治団体の役員に就任したりすることができないと定めている。
発言は「特定の政派の政治的主張に同調したものと解釈される可能性」
こういったことを踏まえて、国外のメディアも相次いで発言を伝えている。韓国の通信社の「ニュース1」は
「日本の自衛隊の最高指揮官が政治的中立性の是非に巻き込まれた」
などと発言を伝え、その理由を
「安倍首相が自民党の総裁を兼ねている点を考えると、河野幕僚長の関連発言は、特定の政派の政治的主張に同調したものと解釈される可能性があるからである」
と解説した。聯合ニュースや中国共産党系の環球時報は、「政治的中立めぐり議論」の見出しで、事実関係を淡々と伝えた。
国内からは批判も出ている。共産党の穀田恵二国対委員長は5月24日の記者会見で、発言を「許されない」と批判。発言は、憲法尊重擁護の義務をうたう憲法第99条を「真っ向から踏みにじる」とした。
与党議員からは歓迎論も出ている。陸上自衛隊OBで佐藤正久参院議員(自民)は、ツイッターに
「多くの自衛官の思いも同じだと思う。憲法に自衛隊の存在やその任務が明記されれば、無用な批判誤解は無くなる」
と書き込んだ。
菅義偉官房長官は5月24日午前の会見で、
「あくまでも個人の見解として述べたということで、全く問題あるとは思っていない」
と述べた。