マットの上に横たわる真っ白な「物体」。白い布で全身をくるまれた数人が、部屋の中で寝転んでいる。2017年5月20日「情報7days ニュースキャスター」(TBS系)で放映されたひとコマだ。
一見ぎょっとする光景だが、これは「おとなまき」と呼ばれる新しいリラックス法で、英BBCにも取り上げられた。考案者に取材した。
「胎児の姿勢が、人間にとって最もニュートラルな姿勢」
まずは写真を見てもらいたい。非常にインパクトが強いビジュアルとは裏腹に、目的は心身のリラックスにあるという。
考案したのは、助産院や整体施術院が入る「京都トコ会館」の会館長、渡部信子さんだ。助産師、整体師で、骨盤矯正用の「トコちゃんベルト」開発者でもある。「おとなまき」の原型は10年ほど前、関西の助産師がシーツにくるまってみたところ、心身ともにリラックスできたところから生まれた。赤ちゃんがぐっすり眠れるようにと体を包む「おひなまき」にヒントを得たのだ。ただ当初は、シーツと体のフィット感や通気性に課題が多く、利用者は増えなかったという。その後の改良の中で、渡部さんが2年前に「おひなまき」と同じメッシュの布で成人でも包めるものをつくり、今の形になった。
取材に応じた渡部さんは「胎児の姿勢が、人間にとって最もニュートラルな姿勢」と説明した。人間は本来、二足歩行で長時間を過ごすのは体にとって負担。また眠る際も、仰向けやうつぶせではなく、ひじと膝を曲げ、丸まって横になるとリラックスできる。ただし、意識して丸まった状態で上から布団をかけただけでは、ニュートラルな姿勢でいつづけるために自分の筋肉を使わねばならず、リラックスしきれない。
「おとなまき」をするのは、足の指まで外に出ないようにぴったりと包んで、「胎児姿勢」をキープするためだ。包まれた状態でゴロリと転がり、しばらくすると手足や体をゴソゴソ動かす人が多いと渡部さんは話す。回数や時間に決まりはなく、人それぞれ心地よさを感じられればよい。
現在、全国で約70か所の鍼灸院や助産院で「おとなまき」を体験できる。圧倒的に女性が多いが、年齢を問わないので子どももいる。鍼灸師や柔道整復師の施設では、男性も試しているという。
「眠ってしまった」「生まれたくないです」
本当にリラックスできるのか、どんな効果が期待できるかは、実際に体験するしかない。「情報7days ニュースキャスター」では、参加者から「気持ちいい」「眠ってしまった」「生まれたくないです」との感想が出た。胎児が母親の子宮の中でゆらゆらしているイメージのようだ。実体験した男性リポーターは「おとなまき」され、ハンモックに乗ったような状態でゆっくり揺らされ、「水の中(にいる)みたい」と述べていた。
NPO法人「美えな塾」の片山やよいさんが、ユーチューブで「おとなまき」を解説していた。体験者は、「体が固い」という女性。最初に片山さんが、女性の首の後ろに「首枕」を当てた。頸椎を保護する目的だ。次にクッションを数個並べた上に伸縮性のある大きな白い布を敷き、その上に女性があぐらをかいた状態で座る。巻き方がずれないように、布には中心線が引かれ、その線が女性の背骨に合わせるようにかけ、背中から頭までかぶせた。あとは、頭側と足元側を結んでいくが、その際にすき間ができないようにする。その後、女性を仰向けに寝かせて、体の左右の開いているところをそれぞれ結ぶ。その間、女性の手は胸の前で重ねる必要がある。これで女性は完全に包まれた。
見た感じは窮屈そうだが、女性は「気持ちいい。すごいリラックスする」という。揺れたり足を動かしたりするだけでも意外と体を使うようで、布の中で汗をかいたとも口にした。15分後に結び目をほどくと「ポカポカ、血流がよくなった感じがする」との感想だ。
最近では、自宅で夫婦や子どもを交えて一家で「おとなまき」をする家族もいるようだ。注意点として渡部さんは、必ず首枕を着けるよう強調した。単身者の場合、地震など緊急避難を要する際はすぐに脱出できるように、布を切れるハサミを用意しておくとよいという。また、未体験者が「見よう見まね」で試すと間違ったやり方になる恐れがあるので、一度体験するよう勧めた。