政府系金融機関の商工中金の不正融資が発覚した。2017年5月9日には所管する経済産業省、財務省、金融庁の3省庁から業務改善命令を受ける異例の事態に発展している。資金繰りが悪化した中小企業を支援する国の制度融資を巡るものだ。不正は融資実績を上げるのが目的とみられ、条件の合わない企業の書類を改ざんして融資条件をクリアしていた。手口は悪質であり、政府系金融機関としての存在意義が問われている。
商工中金が行政処分を受けるのは1936年の設立以降初めて。今回、経産省中小企業庁の宮本聡長官が5月9日、経産省の事務方トップである事務次官も務めた大先輩の安達健祐・商工中金社長を経産省に呼び、処分内容を伝えるテレビニュースの映像を、経産省関係者は複雑な表情で見た。宮本長官は「徹底的に問題を洗い出してほしい」と求めた上で、6月9日までに業務改善計画を提出し、計画に盛り込んだ対策の進捗状況を毎月報告することを命じた。
職員約100人が関与
安達社長は処分を言い渡された後、報道陣に対し、謝罪の言葉を口にしつつも「厳粛に受け止めて全容の解明に努める」と述べて社長辞任は否定した。政府系金融機関による「前代未聞の不正行為」(政府筋)とあって、その後も安達社長は参議院の各委員会に呼ばれて不正について説明。「国費が投入されている制度で不正行為が発生し、深く反省している」などと謝罪を繰り返した。
ここまで大事になった不正は、2008年のリーマン・ショックを機に導入された「危機対応融資」を巡って起きた。危機対応融資とは、金融不安や災害時に業績が悪化した中小企業に対し、商工中金など国の指定を受けた金融機関が低利で資金を貸し付ける制度だ。東日本大震災や熊本地震などでも活用されている。ただ、経済状況に応じて需要は増減するため、融資総額の上限を達成する必要はない。ところが、商工中金では取引先企業の書類を改ざんして業績が実際より悪くなったように見せかけて、対象でなかった企業にも融資を行っていた。
2016年10月に鹿児島支店で発覚し、弁護士で構成された第三者委員会が調査した結果、不正は全国35支店で816件(760口座)、約414億円分で、実際に制度の適用外だったのは348件、約198億円分、本来国から受けられない利子補給額は約1億3000万円で、職員約100人が関与していたことも分かった。
事実上のノルマ、職員の評価対象にも
第三者委員会が公表した報告書によると、不正の背景には「危機対応融資が商工中金の存在意義を示す極めて重要な業務」と位置付けられており、本部が支店に事実上のノルマとして目標を課し、職員の評価対象にもしていた。融資実績が維持できなければ予算を削られてしまうとの認識があったという。つまりは過大なプレッシャーの下、職員が不正に走ったというわけだ。
ただ、この調査の対象は融資全体の約1割に過ぎない。世耕弘成経産相は全容解明のためには全件調査が必要だとしており、今後の調査で不正が拡大する可能性がある。
商工中金トップは2代続けて経産省OBが務めている。安達社長の前任で、不正が行われた当時の杉山秀二社長も事務次官経験者。経産省にとって商工中金は最重要な天下り先の一つ。それだけに「経産省は不正に気付きつつも知らんぷりしてきたのでないか」との批判は政府内から出ており、監督官庁である経産省にも厳しい目が向けられている。