時価総額が国内トップで、売上高や純利益ともに他の追随を許さない巨大企業、トヨタ自動車の業績が伸び悩んでいる。2017年5月10日は、18年3月期の連結業績が2期連続の減収減益になりそうだと発表した。「もっといいクルマをつくろう」を合言葉に、かつては数字にはこだわらない姿勢さえみせていたが、そんな「余裕」は消え失せている。
「2期連続減益はスポーツの世界で言えば連敗。負け嫌いは私だけじゃない」。豊田章男社長は、東京都内で開いた決算発表会見で力を込めた。
販売台数と利益率の伸び悩み
驚いたのはそれを聞いた記者たちだ。慶大時代にホッケーに打ち込み、入社後はモータースポーツにのめり込んだ章男氏が「負けず嫌い」なのは周知の事実だが、経営の「勝ち負け」や「数字」については、これまであまり言及したことはなかった。
この日の会見は、冒頭あいさつからたびたび「反省」を口にした。「もっといいクルマを『賢く』つくるという点では、まだまだ改善の余地がある」、「もっといいクルマにしたいという思いのあまり、性能や品質の競争力向上を優先し、コストやリードタイムは後回しということになっていないか」「『適正販価』-『適正利益』=『あるべき原価』という基本原則を徹底的に突き詰める仕事ができているか」......。そして、「『もっといいクルマづくり』と『賢いクルマづくり』の両輪をしっかり回していくことが大切」とまとめた。「連敗」はなんとしても避けたいとのメッセージを、記者会見の場を借りて社員に伝えたともいえる。
「賢いクルマづくり」、すなわちトヨタ得意の「カイゼン」のアクセルを再びふかそうと必死になるのは、販売台数と利益率が伸び悩んでいるためだ。ダイハツ、日野を含めたグループ全体で初めて世界販売台数が1000万台を超えたのは2014年3月期(1013万3000台)。それ以降、1000万台超えをキープしているものの、2018年3月期は1025万台の見込みで、4年間の伸び率は、ほとんど「誤差の範囲」におさまる。
規模は大きいが、利益率は普通
トヨタの販売は米国、日本という成熟市場が中心。米国では景気拡大を背景に、米ゼネラルモータースGM(など)が得意とする大型車が売れており、セダンが強みのトヨタは分が悪い。世界最大の市場である中国では、独フォルクスワーゲン(VW)やGMに大きく水をあけられている。その他の地域では「柱」と言うほどには育ってはいない。量の伸びが見込めない以上、質を高める必要がある。それが「賢いクルマづくり」というわけだ。
すぐには収益を生まない「将来への投資」も必要不可欠だ。業界の垣根を越えて競争・協業が続きそうな自動運転や、電気自動車(EV)、水素を使った燃料電池車(FCV)といった次世代エコカーに取り組んでいないと、業界内でのポジションが危うくなる。
これらを加味して2018年3月期の連結業績予想をはじいたところ、売上高は前期比0.4%減の27兆5000億円、営業利益は19.8%減の1兆6000億円、純利益は18.1%減の1兆5000億円となった。2016年3月期に10%を超えていた営業利益率は5.8%に落ち込む。規模は大きいが、利益率は普通――というのがトヨタの現状だ。
このままではまずい。量も質も追求したい。そんな経営者としての当然の思いが、危機意識あふれる章男社長の発言を生み出している。