中国主導の「一帯一路」会議  米国が一転して参加した意味

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   中国の北京で2017年5月14日、15日に開かれた「一帯一路」にかかわる国際協力サミットフォーラムに、直前になって飛び込んだ「米国が代表団を派遣することを決めた」というニュースは、中国で驚きをもって伝えられた。

   日本は自民党の二階俊博幹事長、松村祥史経済産業副大臣など70人からの大型代表団を派遣し、フォーラムが終わった後の5月16日に二階幹事長が習近平国家主席と会談したが、中国メディアは、米国がフォーラム開催直前に急きょ代表団を派遣したことのほうをより大きく取り扱った。

  • 米国の「一帯一路」フォーラム参加は驚きをもって受け止められた
    米国の「一帯一路」フォーラム参加は驚きをもって受け止められた
  • 米国の「一帯一路」フォーラム参加は驚きをもって受け止められた

習近平がトランプに言った本音

   米国代表団を率いたのは、大統領特別補佐で、国家安全保障会議(NSC)のアジア上級部長のポッティンジャー氏だった。首脳級は出席しなかったとはいえ、米国が「一帯一路」に「関わる」こと自体が大きな意味を持っており、「大逆転」と言っていい。

   4月に行われた米中首脳会談で、習主席はトランプ大統領に対して、「世界最大の大国としての米国が『一帯一路』の枠組み内での協力に参加することを歓迎する」と述べた。だが、このとき、米国は終始慎重な姿勢を崩さず、フォーラムに重量級官僚を派遣する意向を示すことはなかった。そのため、冒頭のニュースが伝わる前は、「オバマ政権がアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を見送ったように、米国は今回のフォーラムに出席しないだろう」というのが大方の見方だった。

   だが、フォーラム開催の直前に米国が代表団の参加を決め、事態は急転した。フォーラムへの参加は、米国が将来必ず「一帯一路」に参加することを意味してはいないが、ある男性が仲を深めたいと思っている女性を食事や映画に誘ってOKしてもらったのと同じように、今後の進展が期待できるというものだと北京のメディアは見る。

   中国の一部には、次のような主張もある。「中国は現在、毛沢東が『第三世界の友人』を得て米国とソ連に対抗しようしていた時と同じように、米国と世界の覇権を争っているので、AIIBも『一帯一路』も米国や西側諸国と一緒に運営する必要はない」

   だが実際はその逆で、中国は米国が今回のフォーラムに出席できるのかどうかということを非常に重視していた。習主席がトランプ大統領に示した態度は、決して社交辞令的なものではない。

   中国グローバル化研究センター(Center for China and Globalization,CCG)の王輝耀主任は、今回のフォーラムを契機に、米国が「一帯一路」の具体的協力に参加するなら、それは大きな成果であり、チャンスでもあることを意味している、とみている。

中国がバージョンアップする「グローバル化2.0」

   近年、グローバル化の退潮がますます深刻になり、国際貿易の需要が低迷を続け、世界経済の回復に重大な影響を与えている。

   国際通貨基金(IMF)のデータによると、2016年の世界貿易の伸び率はわずか2.2%で、2010年以来最も低い数字であった。最も憂慮すべきは、ポピュリズム、保護主義、孤立主義が世界で台頭しつつあり、世界貿易の摩擦は絶え間なく激化し、反グローバル化、反一体化の傾向がますます強まっていることである。オランダ、フランスの選挙でポピュリズムの台頭は一時的に抑えられたが、ヨーロッパのポピュリズム政党の支持率は過去最高の数字になっており、グローバル市場の新たなリスク源となっている。世界経済はすでに「グローバル化の退潮―経済減速―ポピュリズムの高まり―グローバル化の退潮」という悪循環に陥っている。責任を負うグローバル大国は、グローバルガバナンスの公共財を積極的に提供し、この悪循環を断ち切らなければならない。

   これらの目標の達成は、超大国である米国の支持なしにはなし得ない。

   実際、トランプ政権が行っている「取引外交(transactional diplomacy)」は、価値観やイデオロギーの影響をあまり受けず、実務的である。米国と中国が「一帯一路」の枠組み内で協力する余地は確かにある。

   金融を例にとって説明しよう。アジア開発銀行(ADB)の予測によると、「一帯一路」沿線地域のインフラ建設を行うには、毎年1兆7000億ドルの資金が必要だという。ただ、中国もかかわっている関連3機関(AIIB、新開発銀行(BRICS銀行)、シルクロード基金)の資本総額は2400億ドルにすぎない。このことは、米国が重要な融資分野において、「一帯一路」イニシアチブに参加できることを意味している。

   また、オックスフォード経済研究院の統計によると、近年、中国は毎年「一帯一路」沿線諸国に総額1300億ドルの借款を供与している。その大部分は国家開発銀行ではなく、商業銀行からの資金である。以前、中国の国有銀行と開発銀行はリスク評価と管理監督が甘かったため、初期の海外投資プロジェクトで多くの損失を蒙った。そのことから、中国の銀行は海外融資プロジェクトに対しより慎重な態度をとるようになった。欧米の金融機関の参加は、投資収益の保障と資本運営への監督管理の強化にプラスとなる。そのため、米国の商業銀行とその他の金融機関の参加は、中国の投資リスクの分担にプラスになりうる。 このほか、「一帯一路」イニシアチブは、エネルギー、インフラ、大型機械、通信、ITなどの分野でも米国企業に大きなビジネスチャンスをもたらす。林毅夫・北京大学教授の試算によると、発展途上国のインフラ建設投資が1ドル増えるごとに、0.7ドルの輸入をもたらすが、そのうち0.35ドルは先進国からの輸入である。このことは、ゼネラル・エレクトリック(GE)、キャタピラー、グーグルなどの企業が将来、「一帯一路」によって恩恵を受けることができることを説明している。

   CCGの王主任は「イギリス主導のグローバル化が0.0版だとし、米国主導のグローバル化が1.0版だとすれば、『一帯一路』は中国がバージョンアップに関わったグローバル化2.0版である」とみている。

(ジャーナリスト 陳言)

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