日本看護協会などが「看護週間」の目玉として毎年募集している「忘れられない看護エピソード」の受賞作品が決まり、2017年 5月 7日、東京・表参道の同協会で表彰式が行われた。
7回目の今年はこれまで最も多い3578作品の応募があり、脚本家の内館牧子さん、看護の日PR大使の川島海荷さんらが審査、看護職・一般部門から最優秀賞1編、内館牧子賞1編など10作品ずつ、計20編が入選した。
「闇の中の私」が映像作品に
最優秀賞 (賞金20万円) の看護職部門は福岡県・瀬上(せのうえ)希代子さんの「忘れられない親子の姿」、一般部門は兵庫県・洲本美智代さんの「赤い星」。
新生児集中治療室 (NICU)看護師長の瀬上さんは、身寄りのないAちゃんを世話した部下Yさんの話。ある日、入院してきたAちゃんは低体温、しかも「育児者がいなかった」。3週間の入院中、YさんはAちゃんの日記をつけ、写真や手型を貼っていた。
元気になったAちゃんは乳児院に引き取られ、その後の消息は途絶えていたが、5年後、特別養子縁組をしたという母子がお礼に来院した。「生まれてすぐのときから愛されていたという証しになる『日記』を作ってもらって、本当にありがとうございました」と。
洲本さんの9歳息子さんは難病で外出もできない。「星空を見たい」と話したことを聞いた看護師が次の日、小さなプラネタリウムを持ってきて病室で映してくれた。喜んだ息子さんは数日後に亡くなった。いずれも患者のために一歩踏み出した看護例だ。
看護職部門の内館牧子賞は京都府・小谷英子さんの「闇の中の私」。協会は昨年から入選作1編を映像化しているが、今年はこの作品が選ばれた。小谷さんはバイクにはねられて肩から骨盤、足まで骨折し、寝たきり患者になった。看護師でありながら食事から排泄まで世話をかけ、悲しくて眠れず泣いた。つらい、眠れないと訴えると、看護師長は腰をさすり、「少しずつ良くなってない? 焦らずに」と励ましてくれた。小谷さんは、暗闇の中から救ってくれた温かな手と言葉で、3年後に看護師復帰を果たした。
看護職部門の作品には印象的な患者が登場する。院内のがんサロンで明るく話して皆を励ました重症患者、「死にたい」という94歳の母親を60代の子どもが手足をお湯で洗ったら「今日はいい日だ」と一変した話、清拭中に失神した新人看護師に頑固親父風の患者が烏骨鶏 (うこっけい) の卵をくれた思い出など。一般部門では、切迫流産の危険から掻爬手術が決まっていた日、「せめてもう1日待ってあげて」と言ってくれた看護師のおかげで次の日から出血が止まり、無事出産できたという不思議なエピソードもあった。
受賞作品と映像「闇の中の私」は日本看護協会ホームページで見ることができる。
(医療ジャーナリスト・田辺功)