京都大学の山極寿一総長が2017年4月に入学式に行った式辞を同大学がホームページに掲載したところ、日本音楽著作権協会(JASRAC)から著作権料の請求が来たというニュースが出て、ネット上では大荒れになっている。
総長は16年にノーベル文学賞を受賞した米歌手ボブ・ディランさんの歌の一節を使って、これからの人生の指針を学生に説いていた。ネット上では「商業利用じゃねーだろ」といったJASRAC批判が出ている。
京大「特に対応はしていません」
J-CASTニュースが2017年5月19日に京都大学に取材したところ、一週間ほど前にJASRACから、
「文章の中にボブ・ディランの歌詞が載っていますよ。JASRACに承諾等の手続きがいりますよね」
という電話があり、電話の主の名前と担当部署、電話番号が告げられた。同大学広報は、
「どうしてそういうことになるのか、説明がなかったため、どうすればいいか検討しようがないのが現状です。そのため特に対応はしていません」
ということだった。
京大は17年4月7日に入学式を行い、入学した2930名を前に山極総長が式辞をした。その全文が同大のHPに掲載されている。総長はボブ・ディランの代表曲「風に吹かれて」の歌詞を使って、
「どんな反発があろうと、とっぴな考えと嘲笑されようと、風に舞う答えを、勇気を出してつかみとらねばならないのです」
と語った。歌詞は訳詩とともに、HPに掲載された式辞の中にそれぞれ10行載っている。全文に占める割合は1割程度だ。JASRACはこれを問題にしたのだ。京都新聞は17年5月19日配信の電子版で、
「入学式の式辞について、JASRACがウェブ上に掲載した分の使用料を京大に請求していることが18日、関係者への取材で分かった」
と報じたため、ネット上では「またカスラックか!」と批判が噴出し、
「式辞で歌詞を引用って、商業利用じゃねーだろ」
「そんなこと言い出したら、歌詞になってる色んな日本語が全部言えなくなるわ」
「横暴すぎる。もうヤクザじゃん」
「京大出の弁護士相手に喧嘩売るのか。怖いもの知らずだな」
などという書き込みが掲示板に出て、大荒れになった。
ただ、同大広報によれば、JASRACからはHP上の式辞を指摘されただけで、使用料の請求や、支払うための手続きの案内は無かったという。J-CASTニュースがJASRACに確認したところ、電話したことは認めたものの、「請求はしていない」という答えだった。
HPへの掲載は「公衆送信権」を侵害する
ネット上のJASRAC批判は、大学の総長による式辞で歌詞を「引用」し説く事の何が悪いのか、なぜ著作権料を請求する必要があるのか、という疑問から生じている。学問の場であり、それも教育として使っているのに「言葉狩り」のような形でJASRACは利益を得ようとしている、という怒りだ。
実際のところどうなのだろうか。J-CASTニュースが公益社団法人の著作権情報センター(CRIC)に取材したところ、
「京都大学は明らかに著作権侵害をしています」
と担当者は断言した。歌詞を式辞に使ったことではなく、それをHPに載せたことが問題となるという。著作権法35条などによれば、歌詞を無許可でHPに掲載することは、公衆送信権、複製権、上演権・演奏権を侵害することになる。複製権、上演権・演奏権の場合は、先生が歌詞をコピーし生徒に配っての授業や、営利目的ではない演奏など、無許可で行うことも可能なものがあるが、今回の場合は公衆送信権が最も問題なのだという。これは、
「著作物を自動公衆送信したり、放送したり、有線放送したり、また、それらの公衆送信された著作物を受信装置を使って公に伝達する」(著作権情報センターHPより)
権利であり、つまり、ボブ・ディランさんの歌詞を許可を得ずにインターネットで公開した、というのが問題になっている。
「JASRACの場合はアメリカの著作権団体と相互契約し管理を委託されていますから、京都大学に声をかけた、ということなのでしょう。歌詞は全部でなくても一節でもアウトになります」
と担当者は説明した。
それでは式辞をHPに載せる場合に、今回のボブ・ディランさんのような歌詞がある場合はどうすればいいのか。JASRAC広報は取材に対し、
「こちらから連絡する場合もありますし、歌詞があることが分かったならば事前にJASRACに連絡いただければ詳しく説明します。利用料が発生するかどうかはケースバイケースです」
と語った。