潜在患者600万人「男の更年期障害」克服法 放っておくと認知症・がん・心臓病に

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【クローズアップ現代+】NHK2017年5月9日放送
がんや認知症の恐れも!? コワ~い「男の更年期障害」

   「疲れがとれない」「やる気がでない」「イライラする」...。今そんな症状に悩む中高年男性が増えている。実はこれらは男性ホルモンのテストステロンの減少がもたらす「更年期障害」が疑われる症状だ。

   最新の研究では、「男性更年期障害」は潜在患者が約600万人。深刻なケースになると「認知症」「うつ」「心臓病」などを引き起こす恐れがあることがわかってきた。働き盛りの男性を襲うピンチの克服方法に迫る。

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「朝起きて1時間ボーっと」「汗がダラダラ垂れる」

   最近、この症状に悩まされメンズヘルスクリニックを受診する男性が増えている。番組では都内の専門病院を受診した40~60代の男性13人に協力してもらった。そのうちの1人、精密機械メーカーで働くNさん(47)。2年ほど前から寝起きが悪くなり、目が覚めても体がすぐに動かなくなった。1時間くらいボーっとしているという。また、暑いと感じていないのに大量の汗をかくようになった。

Nさん「通勤途中に普通に立っているだけで、汗がダラダラと垂れて、何滴もポタポタ落ちています」

   もう1人は飲食店で働くMさん(45)。40代になってから何をするにもやる気が出ず、休日も外出するのがおっくうになってきた。

Mさん「4?5日ぐらい疲れが取れません。何をやっていいか分からない。何かをやる意欲を、全部で100あるとするなら40ぐらいの状態かな」

   こうした不調はテストステロンと関係があるのだろうか。テストステロンは20歳くらいをピークに年とともに減ってくるが、13人の参加者のテストステロン値を測ってみると、11人が年齢相応の値よりかなり低かった。なぜテストステロンの値が低いと、心や体の不調をもたらすのか。男性医学の専門家、堀江重郎・順天堂大学教授がこう説明した。

「テストステロンは、筋肉や骨を作り、性機能を維持する働きがある、いわば男らしさを象徴するホルモンです。これが減少すると筋力の低下、不眠、発汗性機能の低下など、体の不調をもたらします。また、認知機能にも関係しているため、減少すると、やる気が出ない、イライラするといった感情面でも影響が出てくるのです。さらに最近は、中高年を取り巻く環境の変化もテストステロンを減少させることが分かってきました。仕事のストレスや不眠などです」

   例えば寝起きの悪さに悩んでいたNさんは、13人の中で値が最も低かった。10年前に管理職となって以来、部下とのつきあい方や責任の大きさにプレッシャーを感じることが増えたという。

Nさん「自分が入社した時の課長より、いろいろ求められています。今は『早く帰れ』とか『有給取りなさい』とか、そういう管理までしなきゃいけない」

   テストステロンを下げる原因はほかにもある。不規則な生活だ。Mさんはもともと証券会社で営業マンをしていたが、会社が経営破綻。今は夕方から夜にかけて飲食店でアルバイト、さらに週3日、コンビニの夜勤バイトを掛け持ちしている。テストステロンは日中よりも夜、寝ている間に分泌量が増えるから、不規則な生活で睡眠のリズムが崩れると、十分に分泌されなくなる。さらに堀江教授が指摘したのは、Mさんの交友関係だ。

友だちが少ないと男性ホルモンが減る

堀江教授「(Mさんに)仲間はいますか?」
Mさん「相談できる友だちというのは少ないです。皆無に等しいかもしれません。44歳で離婚しましたから、1人暮らしです」

   実はテストステロンは、人と接する機会が多い人ほど高い。Mさんの場合はこうした人間関係、家庭環境も影響していると見られる。番組では「自分も少し思い当たる節がある」という武田真一キャスター(49)が、堀江教授にインタビューした。

   ――男性の更年期障害は、実際にはどれくらい広がっているのですか。

   堀江教授「男性更年期障害は、日本では大体600万人ぐらいいることが分かってきました。正式な病名は『テストステロン減少症』というふうに言います。あるいは、医学の言葉で『LOH症候群』とも言います」

   ――なかなか自覚している人は少ないと思いますが。

「女性の場合は、閉経という大きなライフイベントがあり、すべての女性が大なり小なり何らかの症状を感じるのですが、男性の場合は、一部の人がなるということと、これまでは何となく年のせいであるということで、あまり意識されず、症状が気付きにくいということがありました」

「最近新聞が読めない」「メタボ気味」は要注意

   ――ストレスや働き方といった社会的な環境が影響しているのですか。

「実は、テストステロンは、男性の体を作るのに必要なホルモンですが、もう1つ重要なことは、社会性のホルモンだということです。社会の中で自分を主張するとか、チャレンジするとか、あるいは競争する、そういった時にこのホルモンが分泌されます。このホルモンがないと、社会にうまく参画できなくなるのです」

   こんな心当たりがあったら要注意だという。いずれも男性ホルモン低下の典型的なサインだ。年のせいと放っておくと、症状が悪化する場合がある。

(1)最近笑っていない。

(2)新聞が読めなくなった。

(3)よく眠れない。

(4)メタボ気味。

   ――「新聞が読めなくなった」というのは、どういうことですか。

「新聞を読むことは、小さい活字を見て、それをインプットして理解するという、かなり高度な知的機能を使う作業です。テストステロンは認知機能に深く関わっていますから、減ってしまうと新聞を読むことがしんどくなってきます。メタボも、テストステロンは筋肉を作り、同時に脂肪を小さくする作用がありますから、太ってきたら要注意です」

   ――深刻な病気と関連しているケースもあるそうですが。

「テストステロンは血管を拡張し、血液の流れをよくする働きがあります。 これが減少すると、動脈硬化が進行し、心筋梗塞、狭心症、脳卒中といった命に関わる病気のリスクが高まるといわれています。さらに、記憶をつかさどる脳の海馬を活性化させる働きもあるため、減少すると、記憶や認知機能が低下し、認知症につながる恐れもあるのです。また、がんの心配もあります。日本人では前立腺がんが男性のがんで一番多いのですが、テストステロンが低い人は、悪性度が非常に高い前立腺がんが起こりやすいといわれています」

「奥さんと腕を組む」「キャッチボール」に効果

   怖い話だが、普段の生活で、どうしたらテストステロンを高めることができるのか。堀江教授は次のようなアドバイスをする。

   (1)適度な運動:たとえば、通勤の際に駅までの道をいつもより早く歩く。運動をすることでテストステロンが筋肉で消費され、さらなる分泌が促される。ホルモンの消費と分泌を繰り返すと、より分泌されやすい体質になる。

   (2)キャッチボール:子どもとやると結構元気がでる。テストステロンの分泌指令は脳から出るので、脳にポジティブな刺激を与えることが重要。キャッチボールは、運動をしながら楽しかった子ども時代の記憶がよみがえらせ、一石二鳥の方法だ。

   (3)夫婦で腕を組んで歩く:「奥さまと腕を組んで外出してほしい」と堀江教授。ふだん、味わうことが少ない、ワクワクやドキドキ感が脳を刺激する。腕を組んで体を密着させると、より効果的だ。

   (4)カラオケで思いっきり歌う:ポイントは人前で歌うこと。社会参加や自己実現ができている人ほどテストステロンの分泌量が高い。誰かにほめてもらったり、認めてもらったりすると値が上昇する。番組では、Mさんが試してみると、歌う前は「72」だった数値が、3曲歌った後は「116」に上昇した。

   ほかにも「学生時代の友だちに会う」「海に入る」「好きな香りをかぐ」「ゲームをする」「小さなボランティア」「人に親切にする」なども効果がある。ポイントは、自分の居場所を確認でき、リラックスできることで、脳や交感神経を活性化させることだという。

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