植物庭園で栽培・販売された「ポピー」の苗が、日本では法律で栽培を禁じているアヘンの原料「ケシ」だったとして回収が進められている。
販売会社はその種を輸入して栽培しており、輸入した英国の種子会社のカタログには「一番人気」として出されていたという。
あへん法で規制されている「パパヴェル・ソムニフェルム・エル」
問題の植物は、化粧品会社アルペンローゼ(本社・東京都中央区)が運営する植物庭園「ラ・カスタ ナチュラル ヒーリング ガーデン」(長野県大町市)で販売していた。長野県の2017年5月10日の発表によると、4月22日に同園で販売された「ポピー ローレンスグレープ」の苗の違法性について、5月8日に同社から大町福祉事務所に問い合わせがあった。県が苗を調査したところ、あへん法で栽培などを禁止しているケシと特徴が一致。同社が回収を始めた。
J-CASTニュースが5月12日に長野県の薬事管理課に取材したところ、担当者は「ポピー ローレンスグレープ」と特徴と一致したのは、あへん法で規制対象となっている学名「パパヴェル・ソムニフェルム・エル」というケシだと明かした。
辞書的な意味で「poppy(ポピー)」を和訳した「ケシ(ケシ科ケシ属の植物の総称)」にはさまざまな品種があるが、実際には日本で栽培が規制されている品種に限って「ケシ」と呼ぶこともある。あへん法では、3条1号で「パパヴェル・ソムニフェルム・エル、パパヴェル・セティゲルム・ディーシー及びその他のケシ属の植物であって、厚生労働大臣が指定するもの」を「ケシ」と定義づけ、その後の条文で規制内容を記述している。通称「ハカマオニゲシ」「アツミゲシ」と呼ばれる品種なども規制対象となっている。
逆にカタカナ英語で「ポピー」と言う場合は、合法に栽培できる品種「ヒナゲシ(虞美人草)」を指すことが多い。他にも「アイスランドポピー」「オニゲシ」など、合法に栽培できる品種はいくつかある。
アルペンローゼは5月10日、公式サイトで謝罪文とともに「苗の回収と返金」を行っていると発表しており、J-CASTニュースが12日に同社に取材したところ、広報担当者が輸入の経緯を明かした。今回の「ポピー ローレンスグレープ」は英国の種子会社のカタログに「一番人気」として掲載されていたといい、その種を16年7月に輸入・栽培したものだった。英国では園芸品種として一般的に栽培されており、「綺麗な花で、カタログの表紙にも使われていました」と担当者は話す。
輸入時は「検査済み」のシールが
そんな英国一番人気の品種が、日本では規制対象の品種だったということだ。「適法だと疑わずに農場で栽培し、苗にして販売していました。分かった時はまさかという気持ちでした」と担当者は話しており、同社としても思いもよらなかったようだ。
苗の形状などの特徴を見た来園客から5月7日に「違法の可能性がある」と指摘を受けた同社は、県に報告して調査を依頼。違法な「ケシ」だったと発覚した。37株が販売され、15日の時点で13株が未回収だという。同社担当者は「お客様にご迷惑をおかけし、大変申し訳ないと思っている」と話している。
一方、違法なケシが輸入できた経緯はよくわかっていない。一般に輸入物品は各種法規に違反していないかを確認し、必要な手続きを経た上で税関を通過する。日本貿易振興機構(JETRO)などのウェブサイトによると、ケシの実(種)は輸入に際し「あらかじめ熱処理等によって発芽不能の処理を施したもの」でなければならない。
同社発表文には、今回の種について「英国から直輸入し、日本で通関されたものです」との記述がある。同社担当者も取材に対し「輸入にあたっては日本の植物防疫所の検査を受け、検査済みのシールが貼られていた」と明かした。
J-CASTニュースが5月15日、厚生労働省の医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課の担当者に取材したところによると、「パパヴェル・ソムニフェルム・エル」は麻薬単一条約上の規制対象となっており、英国も日本もこれを批准しているが、実際の規制の内容や運用は条約を実効たらしめるための各国の法律に委ねられる部分がある。そのため、国によって扱いに差が出る場合があり、日本と英国とでは栽培や販売などの規制の在り方が異なっている可能性があるというが、詳しいことはわかっていない。
いずれにしても日本国内では違法なケシだったわけだが、長野県の担当者は「業者としては『違法なものは輸入時に止められるはず』という前提で輸入するだろう。どういう経緯で発芽可能な状態のまま輸入に至ったかははっきりと分からない」としている。そして「とにかく今はケシの拡散を防ぐため、早急に回収を進める」と話している。