皮膚がんの一種の「悪性黒色腫(メラノーマ)細胞」を抑制する新たな化合物を発見したと、近畿大学の研究チームが発表した。
この化合物は、がん化した細胞を標的として作用するため、副作用の少ない抗がん剤の開発につながることが期待されるという。
近大チーム、化合物の探索システム確立
発表を行ったのは、近大薬学部「分子医療・ゲノム創薬学研究室」の杉浦麗子教授、佐藤亮介助教らの研究チーム。報告論文が2017年5月9日、日本分子生物学会が発行する生命科学系国際誌「Genes to Cells」に掲載された。
研究チームは、抗がん剤開発にあたり、そのターゲットとして、がん細胞の増殖に関わる酵素「MAPキナーゼ」に着目。この「MAPキナーゼ」の活性を調節する化合物をめざし、独自の創薬探索手法により化合物の探索システムを開発。そして「ACA-28」という化合物を発見した。
「ACA-28」は、ヒトのメラノーマ細胞の増殖を抑制し、また「アポトーシス(細胞死の一種)」を誘導するという。さらに、ヒトの正常な色素細胞に対しては影響が少なく、がん細胞に対して特に強力に効果を発揮する化合物であることが分かり、研究チームでは、副作用が少ない、新たながん治療薬の開発につながることが期待されるとしている。
薬物療法は40年近く進歩なく
日本では、悪性新生物(悪性腫瘍)のケースが増加しており、厚生労働省の「平成26年(2014)患者調査の概況」によると、患者数は162万6000人にのぼる。シミやホクロの色素成分である「メラニン」を産生する細胞、メラノサイト(皮膚や粘膜などに存在)が「がん化」したメラノーマは、他の悪性新生物に比べると患者数は少ないが、近代チームによると、早期に転移し、悪性度、致死率が最も高いがんの一つ。
国立がん研究センターのウェブサイト「希少がんセンター」によると、メラノーマは皮膚がんの一種とされているが、メラニンを産生する細胞が存在する部位であれば皮膚でなくても、全身どこにでも発生するという。
研究チームの説明では、メラノーマはまた、予後が悪く、早期に転移を起こしやすいため、治療薬は開発されたが、これらの抗がん剤の長期連用によって、現状では「がん細胞の抗がん剤抵抗性獲得」や「重篤な副作用の出現」が新たな問題になっている。また「希少がんセンター」によると、薬物療法については40年近く進歩がなく、海外では11年以来続々と新薬の開発がされているものの、国内では患者が少ないと考えられ新薬の開発や発売が後回しにされてきた。
近大の研究チームは、論文の「今後の展開」のなかで、今回の研究で新規抗がん剤の候補化合物を発見したことを確認したうえ、そのことを目的に開発したシステムにより「副作用の少ない抗がん剤の候補化合物を取得できることが実証された」と指摘。「本システムにより、さらなる抗がん剤候補化合物の探索が可能であると考えられる」としている。