横浜市で2017年5月初旬に開かれたアジア開発銀行(ADB)の年次総会は、ADB創設50周年、日本での10年ぶり開催という記念すべき節目の会合になった。だが、総会や一連の関連会合では、アジア経済をめぐる日中の主導権争いがたびたび勃発。今後の協調体制における課題も浮かび上がっている。
「アジアのインフラ需要は膨大な量が見込まれている。質を高めることも重要だ」。麻生太郎財務相は5月6日のADB総会開会式で、質の高いインフラ整備を後押しするADBの重要性を強調し、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)をけん制した。
AIIBには批判的な立場
日本政府は中国が1年半前に設立したAIIBについて、「融資の審査体制が不十分で、運営も不透明だ」と批判的な立場を貫いている。しかし、今やAIIBの加盟国・地域はアジアだけでなく欧州などにも広がり、70に上る。日米が最大出資国のADBの加盟国・地域数67を抜き、存在感は増す一方だ。
AIIBは、中国が目指す現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を資金面で支える。中国は5月14~15日、北京で「一帯一路」をテーマにした国際会議を開く予定。肖捷財政相はADB総会の開会式で「ADBに一帯一路への支持を求める」と述べ、中国主導のインフラ開発への意欲を隠そうとしなかった。
自らが主導するADB関連の国際舞台にもかかわらず、中国に押されて影が薄くなりがちな日本は、存在感のアピールに躍起となった。ADB総会に合わせて5月5日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)との会合では、ASEAN各国が金融危機に陥った場合に、最大4兆円規模の円資金を供給する枠組みの創設を提案。米国の利上げや北朝鮮の核開発問題など足元のリスクを踏まえ、危機の発生に備えて安全網を強化することが狙いだが、日本と円の存在感を高める思惑もある。
中国が難色を示して頓挫
しかし、同日開かれた日中韓とASEANの会議では、日中韓とASEANが緊急時に多国間でドルを融通し合う協定「チェンマイ・イニシアチブ」の拡充が話し合われたものの、中国が難色を示して頓挫した。開催国・日本が議論をリードして成果を上げたい場面だったが、中国という巨大な国の同意がなければ、多国間協議が進まない現実があらわになった。
日中の財政当局者が協議する「日中財務対話」も総会に合わせて2年ぶりに開かれたが、2013年に終了した日中間の通貨交換協定の再開や、主要国で日本だけに認められていない人民元建ての株式や債券への投資枠など、金融分野の懸案に具体的な進展はなかった。投資枠の付与については、麻生財務相が以前から中国側に要請してきたが、いまだに色よい返事はない。日中関係が不安定な中、中国は秋に5年に一度の共産党大会を控えており、日本との関係強化といった「政治的な話」(麻生財務相)に踏み込むのは難しい状況だ。
アジアのインフラ整備では主導権を握りたい一方、中国との金融面での連携は深めたい日本。「一帯一路」構想や人民元の国際化に突き進む中国とどう付き合っていくのか、難しい戦略を迫られている。