暖かい陽射しが降り注ぐ縁側で、愛おしいわが子の耳を綿棒で掃除する――。愛情たっぷりの親の行為に見えるが、ソレって子どもの耳の健康にとても危険なことだと知っていましたか?
米国では年間約1万人以上の子どもが綿棒による負傷事故で救急搬送されているという報告が、米小児科学会誌「Journal of Pediatrics」(電子版)の2017年4月8日号に発表された。研究班の耳鼻科の専門医は「耳は自浄システムできれいになり、掃除をする行為自体が間違っている」と警告している。
耳あかは自然にはがれ落ち、耳掃除は不要
同誌のプレスリリースによると、報告を行なったのは国立広域小児病院研究センターの研究班だ。米国消費者製品安全委員会のデータから、国内の病院の救急外来で治療を受けた子どもの耳の負傷ケースを分析した。その結果、綿棒が原因で鼓膜に穴があいたり、外耳道に傷がついたり、異物感が残ったりするケガをした子ども(18歳未満)が、1990~2010年の21年間に約26万3000人もいた。年間約1万2500人だ。そのうち、73%が耳掃除中に、10%が綿棒を使った遊びの最中に、9%が綿棒を耳に突っ込んだ状態で転んだ時にケガをした。
研究班の耳鼻咽喉科医師のクリス・ジャタ博士はこうコメントしている。
「多くの人が2つの間違った考えを持っています。1つめは、耳の穴は掃除する必要があるという誤解。2つめは、掃除は自宅で行なうという誤解です。綿棒を使って掃除すると、耳あかを鼓膜の方に押しやるだけでなく、重度のケガを負わせるリスクがあります。人間の体は、耳を保護するために耳あかを作り出しています。耳あかは塵(ちり)や埃(ほこり)をとらえ、耳の奥に入っていかないよう防いでいます。頭を動かしたり、食べ物をかんだりする日常活動で、新しい耳あかが古い耳あかを押し出しているのです」
米国では、耳鼻咽喉科・頭頸(とうけい)部外科学会が共同で2017年1月、新しいガイドラインを発表、「耳掃除は本来必要ない。過度の耳掃除は難聴や耳鳴り、めまいの原因になる。耳掃除をする場合は耳鼻科を受診するように」と警告したばかりだ。
耳あかが湿ったタイプは定期的に耳鼻科で掃除を
実は、日本の耳鼻科医師の間でも「耳掃除の危険性」は常識だった。兵庫県西宮市の梅岡耳鼻咽喉科クリニックのウェブサイト「耳あか」を見ると、こう説明している(要約抜粋)。
「耳あかには、排泄物のイメージがありますが、本来の目的は外耳道を清潔に保つことです。ほこりや汚れから鼓膜を守るだけでなく、抗菌性があり、(病原菌から)外耳道の表面を保護しています。だから、基本的には耳掃除をしなくてもいいのです」
しかし、耳あかには乾いたタイプ(乾性)と湿ったタイプ(湿性)の2種類がある。乾性の人は耳掃除の必要はほとんどないが、湿性の人は耳あかがたまりやすく、定期的な掃除が必要な場合がある。その時は専門医を受診することを勧めている。
「耳の穴には快感を得られる迷走神経が走っているので、(綿棒などで掃除をすると)心地よいのですが、自分で行なったり、家族にやってもらったりすると、外耳道を傷つけ、外耳炎を発症する心配があります。湿ったタイプの人は2~3か月に1度、クリニックで耳掃除をしてもらうことをお勧めします」