寄生虫「アニサキス」の幼虫が原因の食中毒が話題だ。お笑いコンビ「品川庄司」の庄司智春さんは、何とアニサキス8匹が胃の中で暴れ回ったという。NHK「ニュースウォッチ9」の桑子真帆アナと結婚を発表したフジテレビの谷岡慎一アナも、1年前にイクラの寿司を食べた後で激痛に襲われたと告白した。
厚生労働省は、予防法として徹底した加熱や冷凍、目視による除去を挙げているが、テレビのニュース番組では別の方法として「よく噛む」を紹介した。噛むだけで防げるのか、取材した。
厚労省の対策にはない
2017年5月9日放送の「スーパーJチャンネル」(テレビ朝日系)で取り上げたアニサキスによる食中毒のニュースの中で、「アニサキスは物理攻撃に弱く、体に傷がつくとすぐに死んでしまうため、よく噛むことで口の中で死滅させることも可能だという」と紹介された。庄司さんがアニサキス体験を語った5月10日放送の「ノンストップ!」(フジテレビ系)でも、予防法のひとつに「よく噛む」が挙げられた。ただしここでは、谷岡アナが、日常生活の食事での咀嚼(そしゃく)程度では死なないと補足した。
J-CASTニュースは、アニサキスに詳しい国立感染症研究所寄生動物部・杉山広氏に話を聞いた。
「確かにアニサキスは大きく損傷したり千切れたりすれば動かなくなります。しかし、どれほどの強さで何回噛めばアニサキスが損傷して胃粘膜に侵入しなくなるかという科学的データは、現時点ではありません」
要するに、噛まないよりもよく噛んだほうが「まし」という程度で、噛むことがアニサキス症の予防になるとは言い切れないのだ。杉山氏によると、アニサキスを用いた実験では、胃を想定した柔らかい寒天とアニサキスを試験管の中に入れ、胃液に見立てた酢を注ぐ。するとアニサキスは寒天の中に潜り込む。これが、胃粘膜にアニサキスが刺さって侵入する状態だ。一方、アニサキスをスパっと切って同じ状態に置くと、今度は寒天には潜らない。
包丁でアニサキスを切り刻めば、実験で示されたように動かなくなると想像できる。もしかしたら歯で噛みつぶせば似たような状態にできるかもしれない。だが、実際に人がアニサキスをしっかり噛んで飲みこんだ後、胃の痛みが起きたかどうかを検証したデータは、杉山氏が知る限りでは「ない」と話した。
実は、厚生労働省はアニサキス対策として「よく噛む」を挙げていない。