安倍首相が2017年5月8日の衆院予算委員会で、憲法改正について、「自民党総裁としての考え方は相当詳しく(インタビューに応じた)読売新聞に書いてある。ぜひそれを熟読して頂いてもいい」と発言したことが話題になっている。
J-CASTニュースは「安倍首相『読売新聞熟読を』発言 『黙殺』した新聞と『見出し』にした社」(5月9日配信)は、産経新聞が大手5紙では唯一「読売新聞」のくだりを書かない理由を載せていた。これは、マスコミの抜いた、抜かれたのサラリーマンの悲哀を表しているようで面白かった。産経さん、今回は残念でしたが、次の機会に頑張りましょう。
総理大臣と自民党総裁の立場を使い分ける必要性
取り上げた大手紙の報じ方は概ね、安倍首相の答弁は国会軽視というものだった。しかも、安倍首相が新聞でのインタビューや集会へのビデオニュースで話しているのに、国会で答えないというのはおかしいという論調だった。
はたして、このマスコミ論調は正しいのだろうか。
まず、安倍首相は、その答弁の際、「この場には内閣総理大臣として立っているわけでございまして、予算委員会は政府の予算についての議論をする場です。憲法については、憲法委員会で議論していただきたい」、「ビデオメッセージは、自由民主党総裁としてお話をさせて頂いたわけです。質問にお答えする義務があるのは、内閣総理大臣としての責任における答弁に限定させていただきたい」と、国会での答弁は行政府の長である総理大臣として行い、国会外では自民党総裁の立場として答える、と分けている。
それでも、質問者の長妻昭議員が執拗に食い下がるので、「読売新聞でも読めば~」という答弁になった。
なぜ、安倍首相が総理大臣としての立場と自民党総裁の立場を使い分ける必要があるかというと、憲法第99条の関係があるからだ。同条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と書かれている。
筆者のような国家公務員の経験者であれば、この条文を重みをよく知っている。かつて大蔵省時代の筆者の上司で大変議論好きな人がいた。しばしば筆者に議論を仕掛けてくるが、直ぐに分が悪くなり議論を終わりにする。そのとき出てくる言葉が「憲法違反だぞ」だ。この言葉の意味は、かつて本コラム(2015年7月23日配信)で書いた(「黙ってオレのいうことを聞け」という趣旨の、冗談交じりの言い回し)が、公務員には憲法99条により憲法遵守義務があるから、その意見は無効という意味合いもあった。
この筆者の上司とのやりとりは半ば冗談であったが、憲法99条があるから、公務員は憲法を軽々しく批判することも難しいという雰囲気がある。お前は憲法に従わないのかと言われてしまうのだ。