豪社買収でコケた日本郵政 赤字転落は「当然の結果」

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   日本郵政は2017年3月期の連結決算で、2007年の民営化後、初めて最終赤字に転落する。傘下の日本郵便を通じて2015年に買収した豪物流会社トール・ホールディングスをめぐり、巨額の損失を計上するためだ。買収を主導した日本郵政の西室泰三前社長の独断専行と、その後の経営能力不足が招いた当然の結果だといえる。

   日本郵政の長門正貢社長は2017年4月25日、巨額損失を説明するため記者会見を開き、「査定が甘かったのではないか。少し買収額が高かった」と、トール社買収が「高い買い物」だったことを認めた。買収価格は6200億円。企業価値を見直し、17年3月期で4000億円の減損損失を一括計上する。その結果、3600億円の連結最終黒字予想から一転、400億円の赤字に陥る。

  • (画像は同社ホームページより)
    (画像は同社ホームページより)
  • (画像は同社ホームページより)

「日本郵便のグローバル展開」を掲げたが

   日本郵政がトール社買収を発表したのは2015年2月。「日本郵便のグローバル展開」を誇らしげに目標に掲げた。国内は人口減少が続き、インターネットの影響で郵便市場は縮小している。国際物流事業をてがける総合物流企業へと脱皮し、成長するシナリオを描いたというわけだ。

   問題は6200億円という買収価格。社外取締役の中には「買収価格が高すぎる」などと疑問を呈する意見もあったという。

   実際、オーストラリア証券取引所上場企業だから財務諸表を調べることはできるし、買収を仲介する証券会社を通じて様々な情報は入ってきた。しかし、豪州の物流事業や国際物流事業についての知見、既存事業との相乗効果をどう生み出すかの戦略を持ち合わせていたか、買収当時から社内外で疑問視する声があり、結果としても「適正価格」が分かっていなかったことを露呈した。

   当時の日本郵政の社外取締役には、木村恵司・三菱地所会長、御手洗冨士夫キヤノン会長兼社長、三村明夫・新日鉄住金相談役名誉会長、渡文明JXホールディングス相談役、清野智JR東日本会長(いずれも肩書きは当時)といった、そうそうたるメンバーが顔をそろえていた。しかし、西室氏は強引に案件を進めたとされる。トール社買収を発表する2か月前の2014年12月には、グループ3社(日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)を同時上場する方針を正式に発表。「グローバル企業として生き残る」という日本郵政の成長戦略を、なんとしても投資家に示す必要があったためだ。

ガバナンスの限界

   西室氏の華々しい経歴も、異論を差し挟みにくい雰囲気を生んだ。西室氏は東芝の社長、会長を務めた後、東京証券取引所のトップを任され、日本郵政に転じた「大物財界人」だ。社外取締役はそれぞれの立場で問題点を指摘することはあっても、最終的に西室氏の方針を容認した。ワンマン経営者が決めた路線を突き進むしかなかったところに、日本郵政のガバナンスの限界があったといえる。

   買収後の対応もまずかった。日本郵政によると、トール社はこれまで100件を超えるM&A(買収・合併)により成長してきた。規模はどんどん大きくなったが、買収先を独立したビジネスユニットとして管理。バックオフィス、オペレーションなどの統合も行わず、同じグループ内で顧客を奪い合う非効率な営業がまかり通っていたという。

   右肩上がりの時は良かったが、オーストラリア経済の減速により売り上げが減少傾向になると、こうした弱点が顕在化した。2017年1月にトール社の経営陣を刷新、今後1700人の人員削減を実施する予定だが、それまでは思い切った対策を講じなかった。トール買収は、相手企業をコントロールできなかった「悪い見本」として、日本企業のM&A史に刻まれることになりそうだ。

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