ニシキゴイ放流、本当に「美談」か 生態系「破壊の恐れ」指摘も

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   全国各地の河川で定期的に行われている「ニシキゴイの放流活動」。地域団体や地元有志がボランティアとして実施するケースが多く、メディアでもよく「美談」として好意的に取り上げられる。

   そんな放流活動をめぐり、いまインターネット上では、放流されたコイが地域固有の生態系を「破壊」すると訴えたブログが大きな注目を集めている。はたして、ニシキゴイの放流活動は「美談」なのか、それとも「生態系を破壊」するものなのか。J-CASTニュースは、魚類の生態や分布に詳しい専門家に見解を聞いた。

  • ニシキゴイ放流の問題点とは
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自然の川を泳ぐニシキゴイは「おぞましい」

   今回、ニシキゴイ放流の是非が注目を集めることになったのは、山梨県甲府市で2017年5月2日に行われた放流イベントがきっかけだ。これは、地元のNPO法人が企画したもので、甲府市内を流れる貢川(くがわ、荒川の支流)に300匹のニシキゴイを放流するというもの。

   この放流イベントの様子は、地元紙「山梨日日新聞」と日本テレビのニュース専門チャンネル「日テレNEWS24」(ともに2日のウェブ版)が伝えた。こうしたニュースを見たブロガーのMistir(ミスティール)さんが5月3日、

「ニシキゴイの放流は何故『絶対に』あってはならないのか」

と題した記事を自身のブログに投稿した。その内容は、ニシキゴイの放流が河川の生態系に与える「悪影響」を強い語調で指摘するものだ。

   Mistirさんは記事の冒頭で、甲府市の放流イベントの模様を伝えた山梨日日新聞の記事を引用して「絶句だ」と一言。その上で、観賞用に交配を重ねて生み出された養殖魚のニシキゴイが自然の川を泳ぐ光景について、

「ある程度でも生き物について勉強していたら、ゴキブリがうごめく光景よりもおぞましいものに見える。(中略)誰がどう考えても、街中に、山中にチワワが走っているのを見て『可愛いねぇ!』で済ませる人はいないだろう」

との感想をつづっている。

   さらにブログでは、ニシキゴイが生態系に影響を与える理由について、(1)コイは雑食の上、砂や泥も一緒に口の中へ吸い込むため、固有の魚の卵も一緒に食べてしまう(2)コイヘルペスウイルスなどにより大量死が起きる危険性がある――などの点を指摘している。

コイは「侵略的外来種」にも認定されている

   養殖魚のニシキゴイだけでなく、コイ自体も国際自然保護連合が定めた「世界の侵略的外来種ワースト100」にも選ばれている。これは、本来の生育地以外に侵入した生物の中で、特に生態系や人間活動への影響が大きい種をリスト化したものだ。

   このリストの中で魚類は8種だけ。コイのほかには、日本固有の生態系を破壊するとして国内でも大きな問題となった「オオクチバス(ブラックバス)」などが選ばれている。上述したブログでもこの点には触れており、Mistirさんはコイの放流について、

「世界レベルでブラックバスと同列に扱われているような生態系への負担の大きい魚を、喜々として放流しているに過ぎない」

と厳しく指摘している。

   このように、コイの放流を強い語調で批判したこのブログ記事はネット上で注目を集め、ツイッターには、

「ブラックバスの放流の問題が一般にも浸透してからかなりたっているにも関わらず、ニシキゴイの放流がよしとされる頭の悪い世の中...」
「このご時世においてもこんな生態系狂わす行為が行われている事の方に驚く」
「自然を守りたいのに、なんでわざわざ不自然なことをしてしまうんだろ」

との声が相次いだ。

   では、Mistirさんが指摘した「コイ放流の危険性」について、専門家はどう見るのか。岐阜大学地域科学部の向井貴彦准教授は5月9日のJ-CASTニュースの取材に対し、

「観光地の水路や日本庭園の観賞用の池など、人間が管理できるところにコイを放流することは全く問題がありません。ですが、自然の川にそのまま放流するのは、色々な面で問題があります」

と話す。

水草や水生昆虫に大きな影響

   向井氏はまず、コイが生態系に与える影響について、池や湖でのケースを調べた研究はあるが、河川でどのような影響が出るかを調べた研究はないと説明。ただ、

「雑食で丈夫なコイの生態上、河川の生態系にも影響が出ることは確実でしょう。本来はもっと多様な生物が居た場所でも、コイ放流のために『コイとの共生に耐えられる生物』しか残らないという状態になってしまう可能性は十分に考えられます」

とも話した。また、先述したブログが指摘していた「コイが他の魚の卵を食べてしまう可能性」についても、向井氏は「おそらく影響はあると思います」とした。

   ただ、向井氏は過去に岐阜県内の池でコイが生態系に与える影響を調べた経験があるとして、

「正直、コイが他の在来魚に与える影響はそこまで大きくないと感じました。ブラックバスのように、他の小型魚を食べることはしませんから。ですが、水草や水生昆虫、貝には確かな影響がありました。コイの有無で、こうした生物の種数に差が出ていましたから」

とも説明していた。

   なお、向井氏によれば、コイの放流を「制限」する規則を設けている自治体はあるが、放流を完全に「禁止」しているところはないという。

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