米国で流行しているという「Fidget Spinner(フィジェットスピナー、日本ではハンドスピナーとも)」という玩具がツイッター上で話題となった。日本でも流行する兆しを見せており、すでに都内の東急ハンズや家電量販店などでバラエティグッズとして販売され始めている。
玩具といっても、真ん中にベアリングが配置されてくるくる回るというもので、これで何かをするわけでもなくただ指で弾いて回すだけ。一体、どんな経緯で登場したものなのか。
大人の暇つぶし玩具、ではなかった
フィジェットスピナーを販売している東急ハンズ新宿店の売り場では、「大人のリラックストイ」というポップが置かれており、「言うなれば暇つぶし器具」と説明されている。販売されている商品に同梱された説明書にも「何かをするためのものではない」「(指で弾くとよく回る)以外にすることはありません」と記載されていた。
ユーチューブでは凝った作りの外装を自作している外国人が見られるものの、やはり回すだけ。一体何のためのものなのか。答えは2017年5月5日(現地時間)付の英紙「ガーディアン」オンライン版の記事であっさりと判明した。「筋無力症」という難病の娘のために、母親が1990年代初めに作った玩具だったという。同紙は開発者であるキャサリン・ヘッチャーさんへも取材を行っており、当時7歳だった娘さんは普通の玩具をほとんど手に取って動かすことができなかったため、指で弾くだけで遊べるフィジェットスピナーを開発したという。
筋無力症は日本でも難病指定されている、全身の筋力が低下する病気だ。筋肉が自分の抗体によって破壊されてしまう「自己免疫疾患」であることはわかっていて、治療法は確立されているが、発症原因は不明で突然発症する。普通の玩具では遊べないとなるとかなり重い病気だと思われるが、J-CASTヘルスケアが患者団体である「全国筋無力症友の会」に取材を行ったところ、担当者から「3~5歳ごろの幼児期に発症のピークがあるが、指しか動かないような重症患者はまれ」との回答を得た。
「子どもの場合はまぶたが動かしにくくなるという症状がよく聞かれます。大人でもまぶたが動かない、腕が疲れやすいといった症状が主です」
治療を受けず放置しているとまぶたや腕といった部位から徐々に進行し、全身が動かせなくなる、呼吸筋の動きが低下して呼吸困難になるなど重症化する例もある。
「治療法は確立されているので、早めの治療で完治します。子どものころに発症した場合、大人になってから再発する場合もありますが、やはり治療が可能です」
治療は可能だが症状で悩みも...
担当者はフィジェットスピナーの存在を初めて知ったと話してくれたが、まぶたが垂れ下がってしまう症状が多いため、まぶたを持ち上げるためのアームが付いたメガネやテープなどが患者用の道具として販売されているという。
「まぶた以外にも表情筋が動かしにくくなり無反応な人だと誤解されることや、外見的には変化がないものの疲れやすくなってしまい『さぼり病だ』などと言われて悩む患者もいます」
難病情報センターによると2006年の全国調査で患者数は1万5100人となっているが、担当者は現在2万3000人ほどに増えているとした。ただしこれは発症者が増えているのか、診断の精度が向上して増加しているのか、確認できていないという。
ちなみに、フィジェットスピナーの開発者であるヘッチャーさんは現在特許を持っておらず、どれだけ流行してもまったく儲かっていない。しかし、ガーディアン紙の取材では現在の流行に満足しているとし、「筋無力症の子どものために開発したと理解され、人々のストレス解消の道具としても役に立つなら喜ばしいこと」とコメントしている。