日本呼吸器学会は2017年4月21~23日、東京で開催された学術集会で、肺炎を繰り返し衰弱している高齢者や肺炎を併発した終末期のがん患者に対し、積極的な治療を控え苦痛を和らげる緩和ケアを行うことも選択肢になるとした新ガイドライン「成人肺炎診療ガイドライン2017」を発表した。同学会がJ-CASTヘルスケアの取材で明らかにした。
肺炎にも緩和ケアを導入すべきとの議論は数年前から起きており、2016年5月には同学会から「積極的治療を行わない」と明記したガイドライン案が公開されている。
ワクチンが効かない誤嚥性肺炎
厚生労働省が発表している最新の「人口動態統計」によると、2015年時点でがん、心疾患に続き日本人の死因第3位となっているのが肺炎だ。日本呼吸器学会のウェブサイトでは、肺炎で死亡する人の94%が75歳以上と記載されている。
なぜそれほど死亡者数が多いのだろうか。同学会によると高齢者の肺炎の70%以上が「誤嚥(ごえん=食べ物が気管に入ってしまうこと)」に由来する「誤嚥性肺炎」だという。ワクチンの定期接種では、空気中などに存在する肺炎の原因菌を吸い込むことによる感染リスクは下げられる。一方、誤嚥性肺炎は気管で発生した細菌が唾液などと共に肺に流れ込み、体内で増殖するためワクチンの効果が期待できない。
誤嚥性肺炎は細菌の発生源が体内となるため再発を繰り返しやすく、抗菌薬を頻繁に投与する必要がある。だが、菌が薬に耐性を持ってしまうため効果が薄れてしまう。同学会も、
「(誤嚥性肺炎は)優れた抗菌薬治療が開発されている現在でも治療困難なことが多い」
とし、2017年1月に新ガイドラインへのパブリックコメントを募集した際には「再発によって繰り返し苦しんだ末に亡くなってしまう例も少なくない」とコメントされている。
誤嚥が起きないようにできないか。J-CASTヘルスケアが都内の介護事業者に取材を行ったところ、「完全に誤嚥を防ぐのは難しい」と語り、こう説明した。
「流動食にしても、そもそも高齢者は加齢によって『嚥下反射』という口の中のものを食道まで送る動きが低下しているので、知らないうちに誤嚥を起こしていることが少なくありません。介護が必要な状態の高齢者であればなおさらです」
雑菌などが発生しないよう高齢者の口腔ケアに気を注意し、食後すぐに横たわらないようにするなどの対応はしているものの、誤嚥性肺炎のリスクをゼロにするのは困難だと苦慮する様子を見せた。
「見ているこちらがつらくなるほど衰弱」
誤嚥性肺炎に限らず肺炎の特徴的な症状は「発熱」「せき」「たんが出る」などが挙げられるが、患者を特に苦しめるのは酸素低下による呼吸不全だ。高齢になるほど身体機能の衰えも大きく、人工呼吸器がなければ呼吸ができないほど悪化する例も少なくない。末期がんの父親が肺炎も併発して苦しんだという60代の女性は、「見ているこちらがつらくなるほど衰弱していた」と話す。
「直接の死因はがんでしたが、ただでさえがんで体力が低下しているところに肺炎でさらに弱ってしまい、もうろうとした状態で苦しみながら亡くなった姿を思い出すと、もっと早い段階で緩和ケアなどを考えてあげればよかったと思うこともあります」