日銀の新たな審議委員の候補として、三菱UFJリサーチ&コンサルティング上席主任研究員の片岡剛士氏と三菱東京UFJ銀行元副頭取の鈴木人司氏の2人を政府が「指名」した。片岡氏は金融緩和に積極的な「リフレ派」のエコノミストとして知られ、アベノミクスの看板政策である大規模金融緩和の推進派がまた増えた形だが、デフレ脱却は依然見通せず、日銀の政策の行き詰まり感は増すばかりだ。
政府が2017年4月18日、候補として提示した。このうち、市場が注目するのが片岡氏で、三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に入社後、エコノミストとして活躍してきた「リフレ派の中心的な人物」(アナリスト)。同じくリフレ派の岩田規久男・日銀副総裁や原田泰審議委員とともに、大規模な金融緩和を推し進める安倍政権に肯定的な立場をとってきた。市場では「岩田氏や原田氏に近いリフレ派の片岡氏に、官邸サイドが白羽の矢を立てた」(別のアナリスト)との見方が強い。
大規模緩和を事実上、軌道修正
日銀の金融政策を決める政策委員会のメンバーは、総裁と2人の副総裁、6人の審議委員の計9人で構成される。6人の審議委員のうち、7月に退任する木内登英、佐藤健裕両氏は大規模緩和の副作用を懸念し、現行政策に反対票を投じてきた「野党」。その2人に代わり、リフレ派の片岡氏が入ることで、黒田東彦総裁が進めてきた緩和路線はいっそう強化されそうだ。
ただし、片岡氏が加わることによって黒田体制が盤石になるかといえば、ことはそう簡単ではない。2013年の黒田総裁就任後、日銀は市場で国債を大量に買って世の中に資金を供給する大規模緩和策を続けてきた。だが、物価上昇の効果はほとんど現れていないうえ、国債の買い入れ余地に限界が見え始めるなど、副作用が目立つようになってきた。
そこで、日銀は2016年9月、金融政策の目標を「国債購入の量」から「金利」へと大転換した。黒田総裁の就任以来続けてきた国債の大量購入による大規模緩和を事実上、軌道修正したといえる。
さらなる量的緩和が必要との認識示す
これに対し、片岡氏はレポートや報道機関へのコメントで、日銀が国債の買い入れを縮小することを懸念し、さらなる量的緩和が必要との認識を示していた。リフレ派らしく、あくまで「量」にこだわる片岡氏が、審議委員就任後に日銀の「軌道修正」に異を唱えれば、「オール与党」になったはずの政策委員会に不協和音が生じる可能性もありそうだ。
一方、もう一人の鈴木氏は債券など市場部門のスペシャリスト。日銀の大規模緩和やマイナス金利政策は金融市場や金融機関の経営に大きな影響を及ぼすだけに「市場を熟知した審議委員の存在は心強い」(金融関係者)との期待は強い。金融政策に対するスタンスは明らかでないものの、金融機関を運用難に陥れたマイナス金利政策には慎重な立場とみられる。
黒田総裁の任期もあと1年を切る中、今回の交代により、6人の審議委員全員が安倍政権のもとで選ばれたことになる。黒田総裁の就任当初は「黒田バズーカ」ともてはやされた大規模緩和の威光も既に色あせており、政策委員会もいっそう難しい判断を迫られそうだ。