誰だって自分が食べたいものを食べている、と思っているに違いない。――ところが、腸内細菌が人間は何を食べるかを脳に指令を出して決めている可能性があるという驚きの研究が発表された。まだ、ハエの研究の段階だが...。
ポルトガルのシャンパリモード未知問題研究所と豪州モナッシュ大学の研究チームが、生命科学誌「プロス・バイオロジー」(電子版)の2017年4月25日号に発表した。
人間の体は細胞と細菌からなる「超生命体」
人間の腸内には重さにして約1.5キロ、約1000種類の腸内細菌が100兆個も住んでいるといわれる。人間の細胞が約37兆個だから、腸内細菌は細胞の数より3倍も多いことになる。だから、「人間の体はヒトの細胞と細菌からなる『スーパー・オーガニズム』(超生命体・超有機体)である」というのが最近の医学の考え方だ。腸内細菌が肥満や生活習慣病、うつ症状など人間の健康に大きな影響を与えることがわかっている。
「プロス・バイオロジー」のプレスリリースによると、研究チームは腸内細菌が動物の食べ物の嗜好に与える影響を調べるために、ハエの種類を変えて、次の2段階の実験を行なった。
(1)まず、実験動物のショウジョウバエを使って必須アミノ酸が欠乏したエサを与えてみた。必須アミノ酸は生命の維持に必要なアミノ酸のうち、体内で合成することができず、食べ物からとらなければいけないアミノ酸だ。人間の場合は9種類あるが、ハエも数種類ある。ハエがそのエサの中に必須アミノ酸が1種類でも欠けていることを知らずに食べ続けると、繁殖力が衰えてしまう。
(2)すると、ハエはそのエサを食べることをやめ、必須アミノ酸が十分にそろっているほかのエサを欲するようになった。必須アミノ酸の種類をいろいろ変えて実験しても、1種類だけ欠けると、そのエサに対する食欲を失った。
(3)次に野生の果実ハエを使って実験した。果実ハエは5つの主要な腸内細菌を持っている。その1つ1つの細菌を除去したりして、それらがエサの選択に与える影響を調べた。どの細菌が、どのエサの好みにつながっているか分析したのだ。すると、2つの特定の種類の細菌が、必須アミノ酸が欠乏したエサを見分けて、食欲を失わせていることを突きとめた。
腸内細菌の未知のメカニズが人間にも影響?
このことから研究チームは、「ハエの腸内細菌が、このエサは適切かどうかを判断し、ハエの脳に指令を送って食欲を抑制することで、ハエが好ましくない栄養状態と向き合っている」と考えた。それにしても、腸内細菌は、どうやってハエの脳に「このエサを食べるな」「これは食べてよい」と指令を出すのだろうか。研究リーダーのパトリシア・フランシスコ博士は、プレスリリースの中でこう語っている。
「人間には数百から約1000種もの腸内細菌がいますが、ハエは約5種類です。単純な動物モデルを使って、腸内細菌が食べ物の嗜好に与える影響を調べることができました。私たちは最初、腸内細菌自体にハエに必要な必須アミノ酸が欠けているため、ハエの食欲が進まないのだろうと仮説を立てました。しかし、それは間違っていました。細菌のタンパク質成分と必須アミノ酸は関係ありませんでした。まだ、メカニズはわかりませんが、脳に必須アミノ酸が足りない状態の時に、細菌が何か代謝変化を誘発させ、ハエが食べたいものを変えさせていると考えられます。この未知のメカニズから、人間の体にも重要な洞察を得られると思っています」