高齢者にとって「最も危険な場所」は意外にも、実は、住宅内。道路で事故に遭う確率より、転倒により死傷する可能性の方がはるかに高い。
転倒事故当時に大事になりそうなになくても、要介護の原因になるケースも多いという。「転ばぬ先の杖」はないものか
カーペットで衝撃吸収
日本カーペット工業組合が「転倒衝突時の床のかたさの試験方法」(JIS A 6519)に基づき、各種床材の転倒時の衝撃力(G値=小さいほど衝撃力が弱い)を調べたところ、コンクリートが「170」、木質フローリングが「143」なのに対し、カーペットは「106」で、カーペットとアンダーフェルトを重ねた場合は「82」だった。
同組合は「住宅でカーペットが広く利用されることで高齢者の安心・安全な生活につながることが期待される」とし、首都大学東京と共同で、カーペットの衝撃吸収性を実証する研究を始めたことを2017年4月24日に発表。室内で転倒した時に頭部が受ける衝撃度を測定し、転倒状況をシミュレーションして脳挫傷や硬膜下血腫などの様々な脳損傷の発症リスクを予測するという。
研究結果によっては、カーペットは主要な「杖」の一つになりそうだ。
2020年に高齢者住宅のバリアフリー化75%目指す
厚生労働省の「平成27年(2015年)人口動態調査」によると、家庭での事故による死亡者数は年間1万3952人。このうち「スリップ、つまずきなどによる同一平面上での転倒」は1469人だった。65歳以上が約90%を占めた。
死にいたらないまでも、高齢者の場合は事故後に「寝たきり」になる可能性が高い。厚労省の「平成22年(2010年)国民生活基礎調査」によると、要介護認定を受ける理由として「骨折・転倒」が全体の約10%を占めていた。
内閣府の「平成27年版高齢社会白書」は、国民生活センターに医療機関ネットワーク事業の参画医療機関から提供された事故情報を引用して、高齢者にとっての住宅の「危険度」を示している。65歳以上の人が事故に遭った場所は「住宅」が77.1%で最も多く、2番目以下の「民間施設」(8.2%)「一般道路」(6.9%)を大きく引き離している。
ここで考えられる「杖」の有力候補はバリアフリー化だろう。高齢者はちょっとした段差でもつまずいて転倒しかねない。国土交通省の住生活基本計画では、高齢者の住宅のバリアフリー化率として、2か所以上の手すり設置または屋内の段差解消をする「一定のバリアフリー化」を08年の37%から20年には75%に引き上げることを示している。
スポーツ参加で鍛える
厚労省や文部科学省、米国立衛生研究所などが助成し、30人を超える研究者らが多面的分析を進めている日本老年学的評価研究(JAGES)プロジェクトでは、2014年7月「転倒者が少ない地域はあるか」と題した調査報告を発表。高齢者のスポーツ参加による転倒率や、要介護認定率の高低の比較を試みた。
調査は10年8月から11年1月にかけて郵送による自記式のアンケートで実施。回答者は2万9117人(回収率62.4%)で、そのうち非自立者などを除き、分析対象は1万6102人。その結果、スポーツ組織への参加が多い地域で転倒割合は有意に低く、前期高齢者では,転倒割合は最小7.4%~最大31.1%と地域間で約4 倍の差があった。また、スポーツグループの参加者は、不参加者に比べ要介護者が34%少ないこともわかった。
スポーツ参加は、転倒を予防する意味では、自らを助ける「転ばぬ先の杖」といえそうだ。