「我慢しない」がダイエットの王道 糖質控えて食べたいものを食べる(前編)

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

【美と若さの新常識】(NHKBSプレミアム)2017年4月27日放送
「我慢しないを学べ! ダイエットの王道」

   美声だけでなく美貌でも人々を魅了した20世紀最高のオペラ歌手マリア・カラスは、ダイエットのために寄生虫を飲みこみ、腸の中に飼っていたという。そこまでツライ思いをしなくても、「やせるためには我慢が大事」と思っている人は多いはずだ。

   しかし、それは古い常識。いまや「我慢しないことこそ、ダイエットの王道」なのだ。カロリーを抑えるより、糖分を抑えた方が効果はあがる、いま話題の「糖質制限ダイエット」の第一人者をスタジオに招き、「食べる喜び」をあきらめない最新ダイエットの極意を紹介する。

  • 白米はチャーハンよりダイエットによくない?
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リバウンドを繰り返すと骨と筋肉が削られる

   番組の冒頭、MCのお笑いコンビ・フットボールアワーの後藤輝基が、ゲストの物まね芸人・やしろ優に聞いた。

「優ちゃんは、ダイエットは何回やりました?」
やしろ優「何十回もやりました。ダイエット中は、成功したら行きたいレストランのリストを持って頑張ります。目標を達成したら、そこでバーンを食べてリバウンド、またダイエットの繰り返しです(笑)」

   ダイエットとリバウンドを繰り返す人も多いはずだが、リバウンドの恐ろしさをメタボリックシンドローム(代謝異常症候群)の第一人者、慶應義塾大学の伊藤裕教授がこう説明した。

「食事の調節だけで体重を落としている人は、脂肪だけでなく筋肉や骨も削られていきます。しかし、リバウンドで太る時は脂肪しか増えない。だから、何度もリバウンドを繰り返す人は、骨と筋肉がどんどん細くなります」

   実際、やしろ優の全身のレントゲン写真が映し出された。骨格がはっきりわかる。それを見て、伊藤教授が「ちょっと全体的に骨が細いですね。特に骨盤の発達が少ないのが気になります」と指摘すると、新婚直後で妊活中というやしろ優は、泣きそうな顔になった。このように、嫌なことを長続きさせるのは難しいから、「我慢するダイエット」はすぐにリバウンドする。これに対し、「糖質制限ダイエット」の基本は糖分を控えるだけで、ほかは食べたいものをあまり制限しないため、我慢はしない。無理せず、少しずつやせていく。

   2008年にイスラエルの研究チームが、ダイエットの常識を覆す論文を発表した。それまでは、カロリーのとりすぎが太る原因である、だから特にカロリーが高い脂肪分を減らせばよいという考え方だった。研究チームは、カロリーの高い脂肪を制限した料理を食べるグループと、糖分を制限した料理を食べるグループの2つに分け、ダイエット効果を2年間追跡調査した。すると、脂肪を制限したグループは、5か月後に約5キロ減ったが、その後リバウンドし、最終的に3キロ減で落ち着いた。ところが、糖質制限グループは、5か月後に約6キロ減ったが、リバウンドはゆるやかで最終的に5キロ減で落ち着いた。脂肪を制限したグループより成績がよかったのだ。

血糖値をあげないようブドウ糖が脂肪に変わる

   糖質制限ダイエットの提唱者で、糖尿病研究のエキスパート、北里大学北里研究所糖尿病センター長の山田悟教授はこう語る。

「この研究は衝撃でした。糖質を制限する以外は好きなものを食べてもよいというのは糖尿病の患者さんには救いです。それまで私は、カロリーを控えさせる食事療法を指導してきましたが、患者さんには本当にツライ食事で、あまり成功しませんでした。最近、糖質を制限した専門料理を出すレストランに患者さんを連れて行きました。2人が『こんなに食べていいのですか!』と悲鳴を上げました。別の2人がデザートを口にした途端、『何年ぶりでしょう!』と泣きだしてしまいました」

   スタジオには、その時の料理が運ばれた。小麦ぶすま(胚芽部分)のパン、小麦のタンパク質だけで作ったパスタ、糖分ゼロの甘味料で使ったアイスクリーム、チョコレート...。ゲスト一同試食すると、みんな「おいしい!」とうなずく。パンもパスタも普通の物より糖分はそれぞれ約6分の1、10人の1だ。ただし、カロリーは普通のものと変わらない。それなのになぜ、糖尿病患者が食べても大丈夫で、ダイエット効果があるのか。山田教授がこう解説した。

「実は最新の研究で、肥満の原因は脂肪ではなく、糖分(ブドウ糖)であることがわかってきたのです。『血糖値スパイク現象』というのがそれです」

   「血糖値スパイク現象」のメカニズムはこうだ。脂肪は体内に入ると脂肪酸に変わり、あちこちでエネルギーに使われ、むしろ体の役に立っている。一方、糖分はブドウ糖に変わり、血流を通じて全身に配られる。このブドウ糖に太りやすくなるヒミツがあるのだ。

   血糖値が上がりすぎると体に障害が起こるので、血液中のブドウ糖は常にほぼ5グラムに保たれる仕組みが体にある。ところが食事をとると、一時的に血中のブドウ糖が上昇する。ブドウ糖が上昇すると、すい蔵はインスリンを分泌し、血液中のブドウ糖を5グラムに抑えようと働く。この食後の血糖値の急上昇、急下降の動きを血糖値スパイクと呼ぶ。そのグラフがスパイク(くぎ)のように鋭角を描くことから名付けられた。

   血糖値スパイクが、なぜ肥満の原因になるのか。インスリンは、血液中にあふれたブドウ糖を減らすため、なんと脂肪細胞を利用するのだ。インスリンが、脂肪細胞のスイッチをオンにすると、脂肪細胞が周囲のブドウ糖をどんどん吸収する。おかげで血液中のブドウ糖は急激に減少し、血糖値スパイクも収まるが、その代わりブドウ糖は脂肪細胞の中で脂肪に変わり、脂肪細胞が大きく膨れあがる。これが肥満だ。だから、インスリンは肥満ホルモンと言われる。糖分をとればとるほどインスリンが働き、脂肪が増えていく。逆に言えば、糖を減らせば血糖値スパイクも抑えられ、脂肪が増えにくくなるというわけだ。

オニギリよりステーキの方がダイエットにいい?

   ここで、MCの後藤がクイズを出した。

「ここにオニギリ1個とステーキが1皿あります。ダイエットのためにはどちらを食べた方がいいでしょうか? つまり、どちらが太りやすいかです」

   オニギリ1個(100グラム)は約180キロカロリー、ステーキ1皿(100グラム)は約498キロカロリーだ。誰が考えても、ステーキの方がカロリーは多いから太るに決まっている。――それがこれまでのダイエットの常識だった。

MCの後藤「しかし、糖質制限ダイエットとは、ザックリ言えば、オニギリの代わりにステーキを食べようという方法なのです」

   ゲスト一同が「え~、なんで~?」といぶかる目の前に、オニギリ1個と角砂糖12個が載った皿が運ばれてきた。わかりやすい仕掛けだ。オニギリの糖分は、体の中に入ると角砂糖12個分ものブドウ糖に変わり、血糖値を急上昇させる。しかし、ステーキは血糖値をあまり上げない。

   MCの後藤がまたクイズを出した。

「同じ量の白米のご飯とチャーハンがあります。どちらの方がダイエットにはいいでしょうか?」

   チャーハンは、白米に具材の肉や野菜、アブラが加わっている。今度はチャーハンの方が分は悪そうだが、答えはチャーハンだ。山田教授が解説した。

「非常に難しい問題で、単純にカロリーだけを考えたらチャーハンの方がよくない。しかし、チャーハンはお米がアブラでコーティングされているので、消化吸収がゆるやかなのです。白米は食後30分で血糖値が60ミリグラムも上がりますが、チャーハンは25ミリグラムしか上がりません。また、具材のタンパク質が消化をゆっくりにし、血糖値の上昇を抑えてくれます」

   ここで、伊藤教授が「だからと言って、ステーキやチャーハンの食べすぎはよくありません」とクギをさした。

「カロリーは、やはりとりすぎると太ってしまうことは確かです。ただ、同じカロリーをとっても内容が違うと太りにくくなるというのがポイント。人間の体は糖分をため込むことができない。そのため、糖分を減らすと脂肪を燃やして糖分を作らざるを得なくなる。だから、糖質を減らすとやせやすいのです。ところが、脂肪は体中に十分ため込まれており、食事で少しくらい減らしても体が驚かないから、減量にあまり効果がないことがわかってきました」

1日1食より3食きちん食べた方がやせられる

   血糖値スパイクの不思議さは、食事の回数にもあらわれる。山田教授は、次の3つの食事の仕方によって血糖値スパイクと消費エネルギーが違うことを実験で調べた。

(1)朝昼晩をきちんと食べる:朝食(400キロカロリー)+昼食(800キロカロリー)+夕食(1000キロカロリー)=計2200キロカロリー。
(2)朝食を抜く:昼食(800キロカロリー)+夕食(1000キロカロリー)=計1800キロカロリー。
(3)夜にだけドカ食いをする:夕食(1000キロカロリー)。

   その結果、(1)の3食きちんと食べる方法が、摂取カロリーは一番多いが、血糖値の上昇もゆるやかで、消費エネルギーが一番高く、ダイエット効果に一番適していることがわかった。一番悪いのは、(3)の摂取カロリーは低いが、ドカ食いだった。

   やしろ優「今日はロケでたくさん弁当を食べるから、朝は抜こうとするのはよくないのですか」

山田教授「はい。長い時間をあけてドーンを食べると、血糖値が急上昇します。我慢して1食抜いても損をするだけ。規則正しく食べることが大事です」

   では、具体的にどんな食べ方をすると、よいのだろうか。後編に続く。

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