血糖値をあげないようブドウ糖が脂肪に変わる
糖質制限ダイエットの提唱者で、糖尿病研究のエキスパート、北里大学北里研究所糖尿病センター長の山田悟教授はこう語る。
「この研究は衝撃でした。糖質を制限する以外は好きなものを食べてもよいというのは糖尿病の患者さんには救いです。それまで私は、カロリーを控えさせる食事療法を指導してきましたが、患者さんには本当にツライ食事で、あまり成功しませんでした。最近、糖質を制限した専門料理を出すレストランに患者さんを連れて行きました。2人が『こんなに食べていいのですか!』と悲鳴を上げました。別の2人がデザートを口にした途端、『何年ぶりでしょう!』と泣きだしてしまいました」
スタジオには、その時の料理が運ばれた。小麦ぶすま(胚芽部分)のパン、小麦のタンパク質だけで作ったパスタ、糖分ゼロの甘味料で使ったアイスクリーム、チョコレート...。ゲスト一同試食すると、みんな「おいしい!」とうなずく。パンもパスタも普通の物より糖分はそれぞれ約6分の1、10人の1だ。ただし、カロリーは普通のものと変わらない。それなのになぜ、糖尿病患者が食べても大丈夫で、ダイエット効果があるのか。山田教授がこう解説した。
「実は最新の研究で、肥満の原因は脂肪ではなく、糖分(ブドウ糖)であることがわかってきたのです。『血糖値スパイク現象』というのがそれです」
「血糖値スパイク現象」のメカニズムはこうだ。脂肪は体内に入ると脂肪酸に変わり、あちこちでエネルギーに使われ、むしろ体の役に立っている。一方、糖分はブドウ糖に変わり、血流を通じて全身に配られる。このブドウ糖に太りやすくなるヒミツがあるのだ。
血糖値が上がりすぎると体に障害が起こるので、血液中のブドウ糖は常にほぼ5グラムに保たれる仕組みが体にある。ところが食事をとると、一時的に血中のブドウ糖が上昇する。ブドウ糖が上昇すると、すい蔵はインスリンを分泌し、血液中のブドウ糖を5グラムに抑えようと働く。この食後の血糖値の急上昇、急下降の動きを血糖値スパイクと呼ぶ。そのグラフがスパイク(くぎ)のように鋭角を描くことから名付けられた。
血糖値スパイクが、なぜ肥満の原因になるのか。インスリンは、血液中にあふれたブドウ糖を減らすため、なんと脂肪細胞を利用するのだ。インスリンが、脂肪細胞のスイッチをオンにすると、脂肪細胞が周囲のブドウ糖をどんどん吸収する。おかげで血液中のブドウ糖は急激に減少し、血糖値スパイクも収まるが、その代わりブドウ糖は脂肪細胞の中で脂肪に変わり、脂肪細胞が大きく膨れあがる。これが肥満だ。だから、インスリンは肥満ホルモンと言われる。糖分をとればとるほどインスリンが働き、脂肪が増えていく。逆に言えば、糖を減らせば血糖値スパイクも抑えられ、脂肪が増えにくくなるというわけだ。