薬や医療技術は病気を予防、改善することでQOL(生活の質)を上げるだけでなく、働けることで本人の就労で労働生産性が向上するなど、経済生活にも寄与する・・・2017年 4月26日、東京で開かれた日本医師会と米国の医療機器、診断薬メーカーが中核の先進医療技術工業会 (AdvaMed)主催のシンポジウムでの主張が注目を集めた。
薬や医療機器の高額化が日本で大きな話題になっていることから、先進医療技術がコスト以上に有益なことを関係者に理解してもらいたいとの狙いだ。
日本側から問題点の指摘も
米国ミルケン研究所のロス・ディボール統括研究官が基調講演をした。同工業会は医療技術が日本に及ぼす効果の調査を委託したが、その実質的責任者である経済学者だ。
ディボールさんによると、進歩した医療技術で入院期間が短縮され、早期復帰で労働生産性が向上する。また、早期治療で二次的な病気の医療費が減らせる。自立した生活で公介護、家族介護が減り、介護者の職場復帰も期待できる。
ディボールさんは日本人に多い脳血管病、筋骨格病、糖尿病、肺がんの 4つの病気の経済的利益とコストを比較計算した。たとえば、脳卒中のカテーテル血栓除去術は薬物療法より患者 1人年間約70万円、人工股関節置換手術では鎮痛剤治療に比べ約 290万円の利益になるなど、医療技術の経済的効果は非常に大きい、という。
西村周三・医療経済研究機構所長が「経済的側面からの議論は重要だが、日本では予防しても医療費は下がらない感じがある。余分な医療の除去が大事」と感想を述べた後、西村さんを座長とするパネルディスカッションが開かれた。
村山雄一・東京慈恵医大教授 (脳外科) は、脳卒中のカテーテル血栓除去術は画期的な治療だが、日本では技術のある病院に患者が回って来ない現実を批判した。寺内康夫・横浜市大教授 (糖尿病) は、目ざましい糖尿病治療の進歩に一般医はついて行けておらず、看護師など糖尿病療養指導士とのチーム医療に期待を示した。鈴木康裕・厚生労働省保健局長は技術の費用対効果分析の推進、医師や介護者の負担を減らす技術への期待を述べた。
小児期から糖尿病の香川由美・患者スピーカーバンク理事長は、常時インスリンを補給するポンプ治療のおかげで活動ができている。しかし、患者会でこの新技術を知ったのはポンプが発売されて数年経ってからだった。主治医は「うちの病院には入っておらず、よく知らない」。香川さんは情報が患者に十分届いていない状況を指摘した。(医療ジャーナリスト・田辺功)