「ヴォイニッチ手稿」という言葉を聞いてピンと来るあなたは、オカルトやミステリーにかなり詳しい部類だろう。
未知の言語と不思議な挿絵からなるこの書物は、長年「謎の奇書」として世界中の関心を集めてきた。多くの研究者がその解読に挑み、そして挫折してきたが、最近ロシアの地で、新たな研究結果が発表された。
錬金術皇帝ルドルフ2世の旧蔵書
そもそも、ヴォイニッチ手稿とは何か。
羊皮紙で作られた約240ページのこの写本は、アルファベットにも似た、しかしそれとは明らかに異なる文字で記されている。いたるところに、多くの着色された挿絵があるのも特徴だ。植物らしき精密な図版や、裸の女性たち、そしてどこか不気味な幾何学模様といったイラストが、ミステリアスなムードを高めている。
米アリゾナ大学の研究では、使われている羊皮紙は15世紀前半のものだといい、少なくとも、16世紀後半~17世紀前半の神聖ローマ皇帝で、錬金術に耽溺したルドルフ2世の蔵書だったことがわかっている。紆余曲折を経て、1912年にポーランド出身の蒐書家ウィルフリッド・ヴォイニッチのコレクションに入り、以後「ヴォイニッチ手稿」という名で呼ばれるようになった。
いったい、ヴォイニッチ手稿には何が書かれているのか。「錬金術の秘伝書ではないか」「異端の宗教書では」「英国の大学者ロジャー・ベーコンが密かに記した研究書だ」など、さまざまな説がこれまで浮上してきた。
プロ、アマチュアを問わず多くの研究者が解読に挑戦、第2次世界大戦期の米軍の暗号研究のエキスパート、ウィリアム・フリードマン(1891~1969)が執心したことでも知られる。「それらしく書かれているだけで、単なるでたらめ」という説も強いが、少なくとも文字部分については、なんらかの法則性に基づいている、との研究結果も提示されている。
英語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ラテン語の混合
そんな中、2017年4月23日(現地時間)、ロシアの通信社「スプートニク」(ウェブ版)が、ロシアの研究チームがヴォイニッチ手稿について、新たな発見に成功したと報じた。
モスクワのケルディシュ応用数学研究所のチームが見つけたという解読法は、以下のようなものだ。まず、ヴォイニッチ手稿のテキストからまず母音(と思われる文字)と、単語間のスペースを削除する。これを元に、さまざまな言語との比較を行う。そして、得られたデータの構造を分析すると、その正体は英語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、そしていくらかのラテン語を混合したものだった――というのだ。
とはいえ、この方法では母音がごっそり抜け落ちてしまっているので、正確な意味を読み取ることは難しい。「解読法」がある程度わかった、というだけで、実際の解読はまだ先である。そもそも、これまでにも何人もの研究者が「解読に成功した!」と主張してきたが、広く認められるにはいたっておらず、今回のロシアの研究もその点ではまだ未知数だ。
スプートニクの取材に対し、研究チームの一人はヴォイニッチ手稿の内容について、「阿片を採取するためには、ケシをいつ植えるのがいいのか」というようなテーマが扱われている、との見解を示した。はたして全容解明のときはくるのか。