教育無償化めぐり自民党内バトル マスコミ巻き込み「財源論争」

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   教育の予算確保を目指す動きが自民党を中心に、にわかに騒がしくなっている。「教育国債」や「こども保険」というアイデアが飛び交い、憲法を改正して教育費無償化を盛り込むとの主張もある。

   幼児教育~高等教育まで、どこに焦点を当てるかなど、関係者の狙いが必ずしも一致しているわけではないが、教育の充実は国家の大計で、基本的に異論はないところ。財政状況が厳しい中で、どう財源を捻出するかという争いの側面も強い教育の財源論争の行方は?

  • 教育費無償化は実現なるか(画像はイメージです)
    教育費無償化は実現なるか(画像はイメージです)
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憲法改正を前に進める思惑も?

   まず、なぜ2017年の今、教育の無償化なのか、という疑問だ。社会的要請として、格差社会、子どもの貧困化などによって、十分な教育を受けられない人が増え、これが世代を超えて連鎖し、社会問題化している。一方、アベノミクスによる経済成長を目指しつつ、なかなか成果が見えない中で、人材への投資による生産性向上という純経済的な要請もある。

   さらに加えて、憲法改正の思惑もある。改憲を目指す安倍晋三政権として、改憲に積極的な維新の会を取り込み、与党の一角を占める公明党を改憲の流れに引き込むという大きな戦略がある。その、改憲へのカギを握る維新の会の憲法改正原案に「教育無償化」が盛り込まれている。改憲項目として要は、教育無償化という維新の主張に乗ることで、改憲を前に進めたいという安倍首相の思惑があるという見方が強い。

   以上のような全体状況を踏まえたうえで、昨今の一番のトピックがこども保険だ。自民党の小泉進次郎・農林部会長ら若手議員による「2020年以降の経済財政構想小委員会」が3月末、同保険の創設を提言した。保育や幼児教育を無償にするための今の社会保険料に上乗せして資金を集める仕組みだ。

   まず、厚生年金保険料の料率に0.2%(労使折半)上乗せして徴収することで3400億円の財源を確保し、未就学児への児童手当を1人当たり月5000円増額(保険料は30代・年収400万円の世帯で月240円、自営業者は国民年金月160円程度、それぞれ加算と想定)。次に、保険料率を段階的に計1%(年収400万円の世帯で月1200円程度)まで引き上げ、年1兆7000億円の財源を確保し、児童手当を1人当たり月2万5000円増額することにより、現在の児童手当と合わせて保育園や幼稚園(平均保育料は月1万~3万円程度)の実質無償化が実現する――というもの。

教育国債案との違い

   他方、下村博文・幹事長代行(元文部科学相)ら自民党文教族を中心に2月から議論を始めた検討会議では、「教育国債」発行案が浮上している。使途を教育に限定するものだが、赤字国債に変わりはなく、次世代にツケを回すことになる。そこで自民党内には、利子がつかない代わりに、遺産相続の際に額面分の相続税を免除する無利子国債を発行する案もあるが、恩恵が富裕層に偏る上、相続税収も減って、結局は借金が増えることになるとされる。

   また、財源としては消費税増税など税制改正で賄うのが本来の姿だが、現実には、2019年10月に予定される消費税率10%への引き上げの増税分の使途は決まっていて、教育のために使うにはさらなる増税が必要になり、ハードルは高い。

   今回のこども保険の提言は「今以上の国債発行が、将来世代への負担の先送りに過ぎないことは明白だ」と謳っていて、教育国債へのアンチテーゼという狙いが鮮明だ。小泉氏らは、こども保険導入の一方で、医療や介護の保険料は支出を抑制して引き下げることも目指しており、高齢者に偏りがちな社会保険に子ども向けの保険を加えてバランスをとることも視野に入れている。

   ただ、教育国債に問題があるとしても、こども保険の問題点も指摘される。そもそも社会保険は病気や老後生活というリスクに備えて掛け金を出し合う制度で、税で賄われる児童手当などとは理念が異なる。保険方式は税金を納めない低所得層も一定程度負担する一方、高額所得者の保険料でも所得税ほど累進性がないので比較的負担が軽くなる。逆進性でいえば、消費税も低所得者ほど負担率が高くなるという点で共通する面がある。

   また、子どもがいない世帯も保険料を支払うことに批判が根強い。もちろん、教育国債であれ消費税増税であれ、高等教育に進学しない人はメリットがなく、国債の返済や税の負担だけは負うことになり、子のいない親も負担する保険と同様の問題は残る。

「社説」で好意的な社もある一方、強い疑念を示した社も

   以上のように、どの手法であっても、メリット、デメリット両面あり、優劣の判断は簡単ではない。この議論の「ゴール」は6月の「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)」。諮問会議は「成長戦略の中心に人材への投資による生産性向上を据える」(安倍首相)というように、「成長」が目的で、より多くの人が高等教育を受けられるように仕組みを見直すなど、教育投資の拡充を目指すという脈絡で財源も議論することになる。諮問会議と並行して、自民党も「人生100年時代の制度設計特命委員会」の初会合を4月13日に開き、議論を始めた。

   特命委の委員長を務める茂木敏充・政調会長は教育国債に否定的な立場で、こども保険について重点的に議論するとしている。赤字国債を嫌う財務省の主張にも沿い、一躍、教育財源論議の主役に躍り出た感がある。

   マスコミでも、こども保険に好意的な報道も目立つ。社説(産経は主張)で取り上げた全国紙4紙は、教育国債には「費用を教育国債で調達するなら問題だ。国の借金が増え、本来なら現役世代がすべき負担を次世代に押しつけてしまう」(日経4月7日)など、反対・慎重で足並みをそろえる一方、こども保険については、提言の内容のままの実現には疑問視しつつ、「子供・子育て分野に特化した財源を確保する。社会全体で負担を分かち合う。提言の基本的な考え方自体は妥当である」(読売4月11日)と評価し、「子どもの貧困を解消し、出生率を改善するには、高齢者に偏ってきた社会保障給付を抜本的に変える必要がある。『こども保険』を子育て支援の論議の弾みにすべきだ」(毎日4月15日)と、議論の起爆剤として期待する書きぶりが多い。

   一方、日経は「保険料という財源が適切か、使途をどうするかといった詰めるべき課題は多い」と疑問視。読売も「必ずしも保険の枠組みにこだわらず、多面的に検討する必要がある」などと釘はさしている。

   4紙の中で、特に産経(4月9日)は「増税でやるよりも国民の反発をかわしやすい、といった発想が見え隠れする」「少子化の対策費用を、保険料収入に頼ることは適切とは思えない」と強い疑念を示し、特に「2度にわたり消費税率引き上げを延期した安倍晋三首相の口から、今後の展望が聞けないことだ。それが保険や国債といった、その場しのぎのアイデアを生むことにつながっていないか」と、首相の姿勢も槍玉にあげ、真正面からの増税論議の必要を強調している。

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