「病は気から」という日本語がある。英語でも「it's all mental」とか「illness starts in the mind」などといい、洋の東西を問わず、明るく前向きに生きる人は、いつまでも健康でいられるようだ。
日常生活の様々な問題に前向きに対応する能力である「ライフスキル(life skills=生きる技術)」の高い人ほど健康度が高いという研究結果が明らかになった。英ロンドン大学の公衆衛生学のアンドリュー・ステプトー教授らが「米科学アカデミー紀要(PNAS)」(電子版)の2017年4月10日号に発表した。
世界保健機関が推奨する10項目の「性格」
「ライフスキル」とは、社会や対人関係の中で健康に自分らしく生きる能力のことで、最近、中学・高校・大学の教育現場でも、この能力を身に着けさせる指導が広がっている。もともとは、世界保健機関(WHO)が、よりよく生きるために「何を、どうするのか」という選択の場面で役に立つ技術と定義したもので、以下の10の能力を挙げている。
(1)決断力:いくつかの方法の中から最善だと考えられるものを判断し、選択するスキル。
(2)問題解決能力:問題やその原因を見極め、何が起こったのかを正確に予測、推測、判断できるスキル。
(3)創造力:問題を解決する時にどのような方法があるかを考え、また、問題がない場合でも豊かな発想ができるスキル。
(4)批判精神:めまぐるしく入ってくる情報や経験を、客観的な方法で分析するスキル。
(5)コミュニケーション能力:人をコントロールしたり、人にコントロールされたりすることなく、人間関係を損なわずに上手にコミュニケーションができるスキル。
(6)誠実性:好ましいやり方で、人と人との良好な関係をつくり、維持できるスキル。
(7)楽観主義:自分の長所や短所など自分のことをよく知った上で、イメージをプラスに捉えることができるスキル。
(8)共感性:周りの人の意見、感情、立場、気持ちに対し「そのとおりだ」と感じとることができるスキル。
(9)感情の安定性:自分や周りの人の不安や喜怒哀楽の感情を認識し、不安や苛立ちを振り払い、苦しい状況でも落ち着いた対応ができるスキル。
(10)自己管理能力:ストレスを解消する行動を知っている。また、緊張した時にリラックスする方法を学び、探し出すスキル。
「ライフスキル」が多いと経済状態もよくなる
「米科学アカデミー紀要」のプレスリリースによると、ステプトー教授らは10項目のライフスキルのうち、特に重要な「感情の安定性」「決断力」「自己管理能力」「楽観主義」「誠実さ」の5項目を選び、健康状態との関連を調べた。英国の健康調査に参加した52歳以上の男女約8100人を対象に「ライフスキル能力」を測る国際規格の心理テストを行なった。たとえば、「楽観主義」を評価するためには、「人生はチャンスに満ちていると思うか」などの問いに対し、「全くそう思わない」から「非常に強くそう思う」まで7つのランクで答える。一定の点以上を取ると、「楽観主義のスキルがある」と評価される。
この結果、これらのライフスキルを多く持つ人の方が健康状態は良く、慢性疾患が少なく、うつ症状や社会的な孤立も少なく、経済的にも安定していることがわかった。ライフスキルが最も少ないグループ(スキルが0~1個)と、最も多いグループ(スキルが4~5個)を比較すると、少ない人は23%もうつ症状があったが、多い人は3%だけだった。スキルが少ない人は約半数が強い孤独感を訴えていたが、多い人は11%だけだった。また、「全般的な健康状態」を聞くと、少ない人は約3分の1が「良くない」と答えたが、多い人で「良くない」と答えたのは6%だけだった。
今回の結果は、改めて世界保健機関が推奨する「ライフスキル」の獲得が健康にいいことを示した形だ。ステプトー教授はプレスリリースの中でこうコメントしている。
「ライフスキルはどれか1つが重要ということはなく、何個のスキルを持っているかによって、健康度が違ってきます。多く持てば持つほど健康になれるようです。驚いたことに、若い時に身に着けると、年をとってからの経済的状態や心身の健康、慢性疾患の発症などに幅広く影響を与えるようです」
あなたは、10項目のうち、いくつに自信があるだろうか。