スギ花粉症にカプセルを飲む免疫療法薬 九州大学がヒョウタンから駒のアイデア

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   日本人の30%以上が苦しみ、国民病といわれているスギ花粉症。これまで体質改善治療(免疫療法)では、3~5年間、薬を服用する必要があったのに対し、短期間で症状をやわらげる療法が発表された。

   九州大学の中川尚志教授と村上大輔助教らの研究グループが、カプセルを飲んで症状を改善する治療法を開発、科学誌「Scientific Reports」(電子版)の2017年4月11日号に発表した。なんと2か月間飲めばよいという画期的方法だ。

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通常は3~5年を2か月間だけでOK

   J-CASTヘルスケアの取材に応じた中川教授によると、開発した新しい治療法とは、カプセルの中にスギ花粉症の原因となるスギ抗原を、多糖体の一種ガラクトマンナンに包みこんで入れるというもの。多糖体とは、単糖が数十~数百と結合したものの総称で、デンプン、食物繊維、寒天、水飴なども多糖体に入る。そして、カプセルを飲んでもガラクトマンナンの外壁のおかげでスギ抗原は胃では分解されず、腸まで運ばれ消化吸収される。腸は体の中で最大の免疫系で、免疫細胞の6割以上が集まっている。その腸の免疫力を生かし、スギ抗原に体を慣らし体質を改善、アレルギー症状を治すという。

   研究では、22~65歳のスギ花粉症の患者53人を次の2つのグループに分け、カプセル薬の効果を実験した。

(1)スギ抗原とガラクトマンナンを入れたカプセルを、スギ花粉が飛散する1か月前と飛散中の1か月の計2か月間毎日飲む26人。
(2)プラセボ(ニセ薬=標準的な治療薬)を入れたカプセルを同じく2か月間毎日飲む27人。

   その結果、次のことがわかった。

(1)本物の薬を飲んだ人は、ニセ薬(標準的治療薬)を飲んだ人より、鼻や目の症状を改善する抗アレルギー薬の使用量が56.2%も減った。
(2)本物の薬を飲んだ人は、ニセ薬(標準的治療薬)を飲んだ人より、症状のひどさを示すスコアなどが27.8%低くなった。また、特に重い副作用も出なかった。

わずか2か月という短期間で現行の治療薬を上回る治療効果がみられたわけだ。

腸までの運び役にありふれた食品添加物を工夫

   現在行なわれているスギ花粉症の免疫療法では、皮膚の下にスギ抗原を注射し徐々に慣らす「皮下免疫療法」と、舌の下にスギ抗原をふくみ徐々に慣らす「舌下免疫療法」があるが、いずれも3~5年間、毎日続けなければならない。しかし、このカプセル療法だと、スギ花粉飛散前と飛散中の合計2か月間毎日飲むだけでよい。ずいぶん簡単な方法に思えるが、なぜ、ほかの研究者は思いつかなかったのだろうか。中川教授はこう説明した。

「スギ抗原を飲んで慣らす方法は20~30年前にも試みられました。しかし、裸のままの状態のスギ抗原を飲みこむ方法がとられ、すぐに胃で分解され激しい副作用を起こしたため打ち切られました。当時は、スギ抗原を多糖体で包んで腸まで運ぶ方法を思いつかず、ほかの免疫療法の研究に関心が移ったのです。ガラクトマンナンはマメ科の植物の種子から作られる、ありふれた多糖体です。様々な食品の添加物に使われ、とろみの原料にもなります。だから、安全性が高く、副作用の心配もありません」

   短期間カプセルを飲むだけでいいとは、花粉症に悩む人には朗報だが、2か月飲んだだけで体質が改善され、次のシーズンにも効くのだろうか。また、実用化されるのはいつごろになるのか。中川教授はこう語った。

「薬の持ち越し効果のデータはまだ集まっていませんが、薬が効いた人は2~3シーズンは飲んだ方がいいと思います。実用化のためには大規模な臨床試験を行なう必要があります。また、スギ抗原は合成物ではなく天然のスギ花粉エキスを使っているため、抽出して薬剤にするためには生産コストや安定性の課題があります。今後さらに研究を深めて実用化を進めていきます」
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