参道。「社寺に参詣するためにつくられた道」(広辞苑)。御朱印や仏像がブームになるなど、神社や寺への関心が高まっているが、お参りのとき私たちは、通るその道のことをどれだけ意識するだろうか。
そんな参道を愛する人たちがいる。「参道と一口に言っても、さまざまな景観が見られるのが面白いところですね」――そう語るのは、ツイッターで「参道研究会」を名乗り、写真の投稿を続ける、京都府在住の「永太郎」さんだ。
写真投稿相次ぐ
以前から参道をこよなく愛してきた永太郎さんは2017年2月、ツイッターで「参道研究会」の結成を宣言した。研究会、といっても活動は、SNSでハッシュタグ「#参道研究会」をつけて、自分の撮影した参道の写真を投稿する、というものだ。
その理由は、「まち歩きに新しい視点を持ち込みたい」との思いからだったという。
「普通ならば見向きもされないようなものも楽しむことができれば、まちを歩くのがとても楽しくなるんじゃないか。そう思って、私も『路上観察』的な活動をしてみたいと思うようになりました。じゃあ自分ならではの新しい視線とはなんだろう、と考えてきたときに浮かんできたのが『参道』でした」
ツイッターでは、趣旨に賛同した人たちが、これまでに訪れた参道の写真を相次いで投稿している。風景やそれにまつわる逸話など、注目するポイントはさまざまだ。
「福島県桧原湖の湖畔にある神社なのですが、参道が湖に続いています。これは、磐梯山山体崩壊に伴って参道が水没したためなんだそうです」
「向日神社の、斜面にも関わらず真っ直ぐな参道がけっこう好き」
「京都・泉湧寺の参道。参道は登るものが大半であるように思う。泉湧寺のように下る参道は比較的珍しいのではないだろうか」
「参道という視点で巡礼したことなかったな?色んな視点で信仰や歴史を訪ねる。面白いな~今度から登山する時は参道もチェックしとこ」
永太郎さん自身は、参道の伸び方やにぎわいなどに目を留めることが多いという。駅から参道がつながり、にぎやかな商店街がある寺もあれば、大きな神社でも駅から遠く、参道にお店などがあまりないところもある。はたまた、「理念上」の参道と、交通の便などから「実質的」な参道が分裂している場合もあるという。
参道によって「実に多様な姿」がある
永太郎さんは、高校生のころから「参道」に興味を持っていたという。
「私は神社をまわるのが趣味で、よく地図を見ながら小さい神社を探し歩いていました。そこで気づいたのは、『神社は周辺の景観に強い影響を与えている』ということです」
参道は神社そのものではないが、その道沿いには鳥居や灯籠など、「神社らしさ」を感じさせるものが多くある。大きな神社なら、飲食店や土産物屋が門前町をなしていることも少なくない。
「さらに、景観には現れていなくても、地図で見ると、神社からまっすぐ伸びる道がずっと続いていたりと、参道を感じさせる道は多くあります」
2キロに及ぶまっすぐな参道が続く、埼玉・氷川神社。鳥居の前を京阪電車が通り、参道が分断された滋賀・関蝉丸神社。京都・西本願寺のように仏具店が建ち並ぶ参道もあれば、占い屋が集まる大阪・石切劔箭神社、あるいはラブホテルに囲まれた大阪・生國魂神社のような「聖と俗が混じりあう」参道もある。
店でにぎわう参道から、厳かな参道まで。まっすぐな参道から、くねくねと曲がった参道まで。「参道によって実に多様な姿がある」(永太郎さん)。
京都・愛宕神社の参道が一押し
観光地として有名な、京都・嵐山。そこから、火除けの神様として知られる、愛宕神社への長い参道を、永太郎さんのガイドに沿って解説してみよう。
愛宕山を望みながら、まずは嵐山~嵯峨の落ち着いた街並みを歩いていく。しばらく行くと、愛宕神社の門前町として栄えた「嵯峨鳥居本」の一角に入る。国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定された、茅葺屋根の民家が残るエリアだ。昔ながらの趣を楽しみながら、清滝の山道へ。
「その名の通り清らかな川が流れており、6月ごろには蛍も見られます」(永太郎さん)
登山道の周辺には、地蔵や石碑などが並んでいる。古く「伊勢へ七度、熊野へ三度、愛宕山へは月参り」といわれ、京の人々から身近な信仰対象として親しまれた愛宕神社だけに、かつてはこの道にも茶屋があったという。
参道らしい情緒を感じつつ、山道を登って行けば、目の前についに愛宕神社が現れる――。
「この神社も素敵なのですが、我々が注目するのはあくまで参道なので、ここでは割愛します(笑)」(永太郎さん)