がん細胞は免疫細胞の攻撃力を封印し増殖する
――がん細胞はT細胞の攻撃力を封印させて増殖するわけですね。
「はい。このPD-1=PD-L1の結合のカギをはずし、ブレーキを解き放ってT細胞を活性化させるのが、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる免疫療法の薬剤です。免疫チェックポイント阻害薬には、PD-1=PD-L1以外に抗CTLA-4抗体もあります。抗PD-1抗体には『ニボルマブ(商品名オプジーボ)』『ペンブロリズマブ(商品名キイトルーダ)』があり、悪性の皮膚がんや肺がんなどに使用が承認されています。一方、抗CTLA-4抗体は『イピリムマブ(商品名ヤ-ボイ)』があり、悪性の皮膚がんに使用が承認されています」
――実際には、どの程度効果があるのでしょうか。
「免疫チェックポイント阻害薬の特徴は、進行したがんにも効果があるということです。ただし、すべての患者さんにではなく、まだ一部の患者さんですが。私はその効果を『カンガールテール(カンガールの尾)効果』と名づけました。たとえば、イピリムバムの場合、悪性皮膚がんの患者さんに投与した結果を調べると、3年後の生存率は約20%です。ところが、10年後の生存率も約20%、つまり、3年生きた人はその後も生き続けるのです。だから、生存率のグラフがカンガルーの尾のように平らに真横に伸びていきます。従来の薬剤では、10年後まで生き残る人はほとんどいなくて、グラフは地面にくっつきます。進行性肺がんのニボルマブも同じで、3年生きた約30%の人はその後も生き続けているという報告もあります」
――進行性のがんの患者に希望を与える話ですね。
「2016年10月にコペンハーゲンで開催された第41回欧州臨床腫瘍学会で、今後の肺がん治療が根本から変わる臨床試験の結果が報告されました。ステージ4の進行肺がん患者に対し、従来の抗がん剤の中では最も効果がある薬剤を投与したグループと、免疫チェックポイント阻害薬(ペンブロリズマブ)を投与したグループに分け、がんがある一定以上大きくなる期間を比較検証しました。すると、抗がん剤が平均6か月だったのに、抗PD-1抗体は平均10か月でした。全生存期間も大幅に改善しました。さらに、重篤な副作用も抗がん剤の半分でした。抗がん剤の『大横綱』と呼ばれ、30年間変わらなかった薬より好成績を残したのです。免疫チェックポイント阻害薬(ペンブロリズマブ)は単に免疫のチェックポイント(検問所、関所)を外しただけで、私たち人間が従来備わっている、がんをやっつける免疫能が『大横綱』より強力であったということです」