2017年も汗ばむ陽気の日が増え、「冷たいそば」の需要が高まる季節がやってきた。
そんな中、インターネット上で目立つようになってきたのが、「もりそば」と「ざるそば」をめぐる次のような疑問の声だ。「結局、もりそばとざるそばの違いって何なの」「誰か教えてください」――。そこでJ-CASTニュースは今回、複数の専門家に見解を求め、「もり」と「ざる」の違いを改めて探った。
老舗店「終戦直後は『もり』にはわさびをつけないのが一般的で...」
冷たいつけそばのラインナップとして、「もり」と「ざる」の2種類をメニューに並べているそば屋は多い。総じて、「ざる」の方が「もり」と比べて少しだけ高い値段で提供される場合が多いようだ。
実際のところ、店側は「もり」と「ざる」の違いや値段設定について、どのように認識しているのか。1884年創業の老舗そば店「神田まつや」(東京都千代田区)の店主は2017年4月20日のJ-CASTニュースの取材に、
「うちでは、『もり』にはわさびと海苔をつけていません。終戦直後は『もり』にはわさびをつけないのが一般的で、その方式を今も続けています」
と話す。わさびと海苔「以外」の違いについては、「そばやつゆは、特に変えていませんが、せいろの形は変えています」とした。
神田まつやでは「もり」650円(税込。以下同)、「ざる」800円で提供している。その値段の違いについて、店主は「ほとんどがわさび代ですね」。同店では本わさびをおろして提供しているため、
「ちゃんとしたわさびを使うと、やはりそれなりの値段は頂かなくてはいけない」
としていた。
また、福岡県のある人気そば専門店の店主は取材に対し、「うちでは普通の、海苔ののっていないつけそばを『もり』と呼んでいて、天ぷらをつけたものは『天ざる』という名前で出しています」と話す。その上で、
「正直なところ、『もり』と『ざる』という名前にこだわりはないです。別にうちでは、『もり』と『天ざる』でそばの種類や品質に何か違いをつけているということもないですから」
としていた。
チェーン店ではどう「区別」している?
「もり」と「ざる」の両方を置いているのは、何も専門店だけではない。関東地方を中心に店舗を展開するチェーンそば店「小諸そば」の広報担当者は取材に対し、
「うちでは『もり』を260円、『ざる』を320円で提供しています。その違いは、海苔が乗っているかどうかです。他に違いはありません」
と説明した。
また、「ゆで太郎」のフランチャイズ店舗を運営しているゆで太郎システム(品川区)の広報担当者は、
「16年12月に『ざるそば』の商品名を『焼きのりそば』と変更しました。以前よりも海苔の質を上げ、お客様が自分でちぎってかけて頂くようにしたためです」
と明かす。ちなみに、同社が提供している「もりそば」(320円)と「焼きのりそば」(380円)の違いについては、「海苔以外にはありません」と明言していた。
このように、老舗店やチェーン店など「店側」の見解を聞いていくと、海苔やわさびなどのトッピングで違いをつけているとの回答が目立った。もっとも、海苔はかかっていない「ざるそば」を出す老舗店もある。
では、そばの歴史や文化に詳しい専門家は「もり」と「ざる」の違いについてどう考えているのだろうか。
以前は「明確な違い」があったが...
そばの業界団体「日本麺類業団体連合会」の野澤功(いさお)専務理事は、次のように話す。
「少し前までは、『もり』と『ざる』には明確な違いがありました。ですが現在では、海苔の有無やそばの量で差別化することが一般的になってきています」
野澤さんによれば、以前は『もり』と『ざる』では使うつゆの種類を分けていた。具体的には、『ざる』用のつゆは質の良いかつお節で出汁をとり、『もり』のつゆでは質の落ちるかつお節を使う店が多かったという。
だが、歴史が進むにつれてかつお節の質が全体的に上がったため、
「わざわざ『もり』と『ざる』でつゆを分ける必要がなくなった」
という。ただ、野澤さんは「ごく僅かですが、今でもつゆを使い分けている店は残っているようです」とも話していた。
また、そば粉生産で国内最大手の老舗製粉メーカー・日穀製粉(長野市)の担当者は、「もり」と「ざる」の成り立ちについて、
「江戸時代にそばに直接つゆをかける『ぶっかけそば』が流行したことで、それとの差別化をはかるために『もりそば』という言葉が生まれたようです。また、『ざるそば』は江戸の深川にあったそばの名店『伊勢屋』が竹ざるでそばを提供したのが始まりで、それを他の店がマネしたことで広まったと言われています」
と説明する。
担当者によれば、名店の出すそばをまねて広まった「ざる」は、「もり」と比べて高級感を出すことが重要だったという。こうした経緯もあり、「ざる」では質の良いかつお節を使って出汁をとるようになったそうだ。
ただこの担当者も、「本来の意味とはかけ離れてしまいましたが、今では『もり』と『ざる』を海苔の有無で分けるのが一般的になっています」と話していた。