以前は「明確な違い」があったが...
そばの業界団体「日本麺類業団体連合会」の野澤功(いさお)専務理事は、次のように話す。
「少し前までは、『もり』と『ざる』には明確な違いがありました。ですが現在では、海苔の有無やそばの量で差別化することが一般的になってきています」
野澤さんによれば、以前は『もり』と『ざる』では使うつゆの種類を分けていた。具体的には、『ざる』用のつゆは質の良いかつお節で出汁をとり、『もり』のつゆでは質の落ちるかつお節を使う店が多かったという。
だが、歴史が進むにつれてかつお節の質が全体的に上がったため、
「わざわざ『もり』と『ざる』でつゆを分ける必要がなくなった」
という。ただ、野澤さんは「ごく僅かですが、今でもつゆを使い分けている店は残っているようです」とも話していた。
また、そば粉生産で国内最大手の老舗製粉メーカー・日穀製粉(長野市)の担当者は、「もり」と「ざる」の成り立ちについて、
「江戸時代にそばに直接つゆをかける『ぶっかけそば』が流行したことで、それとの差別化をはかるために『もりそば』という言葉が生まれたようです。また、『ざるそば』は江戸の深川にあったそばの名店『伊勢屋』が竹ざるでそばを提供したのが始まりで、それを他の店がマネしたことで広まったと言われています」
と説明する。
担当者によれば、名店の出すそばをまねて広まった「ざる」は、「もり」と比べて高級感を出すことが重要だったという。こうした経緯もあり、「ざる」では質の良いかつお節を使って出汁をとるようになったそうだ。
ただこの担当者も、「本来の意味とはかけ離れてしまいましたが、今では『もり』と『ざる』を海苔の有無で分けるのが一般的になっています」と話していた。