米国のトランプ大統領が掲げた入国管理政策が、航空業界にも暗い影を落とし始めた。イスラム圏6か国の国民の入国を一時禁止したり、10都市から米国への直行便について、スマートフォンよりも大きい電子機器の客室内持ち込みを禁じる措置を打ち出したりしたためだ。
この影響で、中東では最大の航空会社が米国便の減便を打ち出した。
イスタンブール、ドバイ発も規制対象
トランプ大統領は、テロ対策としてイスラム圏6か国から入国を規制する大統領令に署名したが、ホノルル連邦地裁などが執行差し止めを命令。トランプ政権は、命令は不当だとして控訴している。こういった状況への「苦肉の策」として2017年3月21日に打ち出したのが「電子機器持ち込み禁止令」。中東と北アフリカ8か国・10都市から米国に向けての直行便について、スマートフォンより大きい電子機器の客室への持ち込みを禁じる、という内容だ。これにともなって、ノートPCや、iPadをはじめとするタブレット端末はチェックイン時に荷物と一緒に預けなければならない。対象になる10都市には、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ国際空港やトルコのイスタンブールにあるアタテュルク国際空港など、乗り継ぎの拠点になっている複数のハブ空港も含まれる。とりわけドバイの16年の国際線利用旅客数は約8365万人で、国際線としては最も利用者が多い。
「利用者の利益と米国旅行の需要に直接の影響を与えた」
実際にこの政策は、中東の航空会社に影を落としている。ドバイが拠点のエミレーツ航空は4月19日、米国への直行便を5月から7月にかけて2割減らすと発表した。減便の対象になるのは、エミレーツが乗り入れている米国の12都市のうち5都市。ボストン、ロサンゼルス、シアトル便は1日2便から1便に、1日1便(週7便)だったフォート・ローダーデール(フロリダ州)とオーランド(同)便は週5便になる。エミレーツ航空は声明で、トランプ政権の政策が「利用者の利益と米国旅行の需要に直接の影響を与えた」と説明。具体的な減収額は明らかにしなかったが、「この3か月で予約数が大幅に減少した」とした。ノートPCやiPadが持ち込めなくなることで、特にビジネス客の足が遠ざかったとみられる。
中東の航空会社は急成長を続けており、米国に乗り入れる路線も増加していたが、米国の航空業界は「中東の航空会社は『オイルマネー』を背景にした政府からの補助金で不当に値段を下げている」などと批判を強めていた(中東の航空会社側は事実関係を否定)。こうした状況で今回のトランプ政権の措置が打ち出された上、この措置は米国の航空会社には適用されないため、一部では「中東の航空会社への『狙い撃ち』だ」という指摘も出ていた。