英国のメイ首相が2020年に実施予定だった総選挙を、2017年6月8日に前倒しする方針を表明したことをきっかけに、 4月18日の外国為替市場では英ポンドがドルや円に対して急伸した。
この日のロンドン外国為替市場で、英ポンドは対ドルで前営業日の4月13日と比べて一時、1.2765ドル近辺と2016年12月6日以来のポンド高・ドル安を付けた。また、ポンドは対円でも上昇。前営業日比2円、円安・ポンド高の1ポンド138円後半で取引された。
緊急会見に、飛び交った「憶測」
英ポンドの相場は2017年4月18日(現地時間)、大きく乱高下した。
外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長は、「英ポンドは、じつはこの日、一時大きく値下がりして、なにがあったのか情報収集に追われたんです」と明かす。メイ首相が緊急会見を開くとした情報から、「メイ首相が健康上の理由から辞任するのではないか、との憶測が流れたためでした」(神田氏)という。
そのため、ポンドは対円で一時136円前半まで下落。それが6月8日に総選挙を実施することが伝えられると一変し、1ポンド140円まで急上昇。一気に4円も値上がりした。
こうした状況に、外国為替証拠金(FX)取引に投資する投資家の取引ぶりについて、神田氏は「(取引は)あまり多くありませんでした。値動きについて行けず、置き去りでしたね。個人投資家は売りたい人が多いのですが、1ポンド140円を付けたときに、ポンド売りのポジションが出てきたといった程度でしょうか」と話す。
ポンドを売買するFX投資家が取引全体に占める割合は少ないが、為替相場の値動きが大きかったわりに、「損失が膨らんだといった情報は入っていません」という。
メイ首相は「EU離脱強行派」
英ポンドが急伸した要因は、総選挙で与党・保守党が勝利する可能性が高いとの見方が多く、メイ首相による政権運営が安定するとの思惑から、「ポンド買い」につながったとみられる。
第一生命経済研究所経済調査部の主席エコノミスト、田中理氏は2017年4月19日のレポートで、「メイ首相の英断」と題して、「議会基盤が脆弱で、選挙の洗礼を受けていないことが、メイ政権にとってのアキレス腱」と指摘。そのうえで、「離脱協議への影響が少なく、最大野党の労働党が党勢回復に苦しむ今が千載一遇のチャンスと考えたのだろう。前倒し選挙で議会基盤を強化することに成功すれば、保守党内の離脱強硬派の発言力を封じ込めることができる。単一市場から完全な離脱(ハード・ブレグジット)を進める政府の方針に変わりはないが、合意のないままEUを離脱する『クリフエッジ』のリスクは低下する」とみている。
とはいえ、英ポンドがこのまま上昇、あるいは高値水準を維持できるかは不透明。前出の外為どっとコム総研の神田卓也氏は、「6月8日まではまだ紆余曲折ありますよ。EUから離脱するにしても、メイ首相は強行派ですし、むしろ反対派の進め方のほうがソフトランディングで、そちらを支持している人は少なくありません。一方的な値動きにはなりづらく、ポンドが売り戻せる状況にはあると思います」と推測する。
英BBCなどによると、メイ首相は「総選挙を実施しても欧州連合(EU)からの離脱スケジュールに影響はない」との見通しを伝えたとされるが、選挙結果によっては、英国がEUの離脱交渉を有利に進めることができるかどうかはわからない。